2021年06月25日 1679号

【低支持率挽回に「切り札は五輪」/市民の命を危険にさらす異常政権】

 支持率低下にあえぐ菅政権の切り札は、一つは「ワクチン」、もう一つが「東京五輪」。だが昨年、「GoToトラベル」で感染を拡げた菅政権が今度は「Goto五輪」で同じ愚を犯すことになる。だれもが「普通はやらない」と思う五輪。なし崩し的にことが進んでいるとすれば、まさに異常事態だ。市民がブレーキをかけることが求められている。

「感動」が唯一の理由

 「パンデミックの状況で(五輪を)やるというのは普通はない」。政府の新型コロナ感染症対策分科会長尾身茂が6月2日の参院厚生労働委員会で、やっと当たり前の発言をするようになった。反対世論の高まりに、黙っていては責任を問われると思ったのだろう。

 尾身はその後も、五輪開催による感染拡大リスクを口にするのだが、「中止すべき」とは言わない。政府はそれをいいことに、開催にむけ時間を消化している。菅義偉首相の頭には「大会成功。支持率アップ。政権維持」の夢しかないからだ。

 党首討論(6/9)での菅の答弁がはっきり示している。立憲民主党代表枝野幸男が五輪開催の感染リスクをただすと、菅は感染対策はそこそこに、前回東京五輪についての自分の思い出話を長々と語った。「東洋の魔女」「アベベ」「ヘーシンク」。唖然とするばかりだが、要は開催しさえすればマスコミが先を争い「感動」を報道し、風は変わると言いたいのだ。ネガティブ情報は決して報道させない自信があるのだろう。

 五輪の思い出話は、就任当初の「雪深い秋田の農家出身…」を思い起こさせる。だが状況は一変している。一時は「たたき上げ」に期待した世論は、今や能なし政権に絶望している。半世紀も前の五輪の「感動」で騙されるわけがない。

「五輪中止」の意見書を

 菅は責任逃れの道を探っているのも確かだ。

 五輪開催都市は東京。だから小池百合子都知事が前面に立つべきだ―党首討論での日本維新の会共同代表片山虎之助の発言に「我が意を得たり」と応じた。「だが、わたしは逃げるつもりはない」と続けたものの、覚悟はない。

 五輪開催都市の決定には主催国政府の保証が必須条件になっている。まして全国的な感染防止はいうまでもなく政府の責任である。「逃げられる」わけはない。ところが、菅は「専門家が対策をやらないから、感染が広がっているんだろう」(週刊文春6月17日号)と責任の矛先を専門家に向けようとしている。

 菅政権と専門家グループとの関係について京都大学大学院教授西浦博が週刊誌のインタビューに答えている(同)。西浦によれば、専門家グループは今年の2月ぐらいから五輪開催に伴うリスク検討を始めたという。だが、この間政府は五輪リスクについて専門家に意見を聞くことなく開催へとなし崩し的にことを進めてきた。西村康稔担当大臣は「6月20日まで待ってほしい」と専門家の提言を先延ばしさせてきた。反対世論が高じるのを恐れたためだ。

 菅は党首討論で「ワクチン一日100万回達成(実際は60万回程度だった)」とウソをついてまで「ワクチン効果」に期待する。だが、西浦の計算では、7月末に高齢者の接種が完了しても緊急事態宣言が再度必要になる。ワクチン効果を減じる変異株への置き換わりが想定されるからだ。

 実際、ワクチン接種が進む英国でも再び感染拡大の傾向が見られる。世界中から10万人以上の選手・関係者が来日する五輪。新たなウイルスを交換して世界へ拡散することになる。「GoToトラベル」により都市部から地方にウイルスを拡散させた失態をまたも犯そうというのだ。「GoTo五輪」が引き起こす感染拡大は、開催を強行するIOCをはじめとする「カネの亡者」に責任があるのだが、菅がその一人であることも間違いない。「東京五輪」は「ワクチン効果」を消して余りある。菅の切り札は何もないということだ。

   * * *

 市民の命と暮らしを守るべき自治体を動かすことだ。東京都小金井市は6月3日、他の自治体に先駆けて「五輪中止」を決議した。「東京五輪を見切り発車で強行するのは人命、国民生活尊重の観点から許容限度を大きく逸脱する」

 人を集めるパブリックビューイングの中止も相次いでいる。神奈川、千葉、埼玉の首都圏3県が中止決定。愛知県知事は「国が統一的にやめる方針を示すべき」と全国知事会で提案した。

 民意を示すのは都議選や衆院選に限らない。市民が声をあげ、自治体を動かす。「五輪は中止」と自治体に意見書を採択させよう。



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