2021年06月25日 1679号

【時代はいま社会主義へ フランス革命が起こした「新しい社会」をどう見るか―『空想から科学へ』(1)】

 今回から3回、エンゲルス著『空想から科学へ』(1880年)を取り上げます。この著作は世界中の非常に多くの人に読まれている、マルクス主義のもっとも有名な古典です。

 最近、わが国でもマルクスの思想が改めて注目され、資本主義の限界、社会主義的社会への移行の必然性を訴えるいくつかの本が、ベストセラーになっています。『空想から科学へ』は、140年ほど前にヨーロッパの労働者に、同じように資本主義の限界と社会主義の必要性を、もっと基本的な観点から説いています。

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 最初の部分は、1789年のフランス革命によって起こった社会の変化とこの「新しい社会」をどのように見るか、という問題を論じています。人類最初の「ブルジョワ革命」であったフランス革命は、社会の在り方に根本的変化をもたらしました。革命は、「身分制社会」――「第一身分」(聖職者)、「第二身分」(封建貴族)、「第三身分」(その他)からなっていた――を葬り去り、身分による差別のない社会を実現したのです。すべての人間は少なくとも「法の前では平等」な社会が誕生したのです。革命の過程で発布された「人権宣言」はそのことを高らかにうたっています。たしかに、これは人類の画期的な進歩と前進でした。それで、当時のヨーロッパの知識人たちは、「不正、特権、圧政」に代わって「永遠の正義、自然に基づく平等」が打ちたてられ、この地上に「理性の国」が建設されたと絶賛したのです。

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 しかし、今ではわたしたちは、この「新しい社会」が理想の社会ではなく、資本家階級(ブルジョワジー)による労働者階級の搾取と抑圧と差別のまかり通る社会であることをよく知っています。そのことをいち早く見抜いたのが、「空想的社会主義者」と呼ばれている人々です。彼らはこのブルジョワ社会の不平等と欺瞞(ぎまん)を暴き出しました。それは革命勃発から十数年後のことで、今から200年以上も前のことです。

 彼らはみな、その「新しい」不平等と抑圧を告発し、本当の意味で自由で平等な社会の実現を求めたという点では、「社会主義的」でした。しかし、そうした社会を実現する方策を、彼らは科学的に発見できず、その方策を「友愛」に満ちた新しい「宗教」に求めたりしました。この点で彼らは「空想的」であったのです。それは彼らの能力のせいではありません。そもそも、より徹底した自由と平等な社会を実現するはずの主体としての労働者は、当時はまだ階級としては未成熟でした。「社会主義」はまだそれを実現する現実的な基盤を欠いていたのです。

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 空想的社会主義者の一人、ロバート・オーエンの先進的な活動に少しだけ触れておきましょう。イギリスの紡績工場の所有者(資本家)であった彼は、1800年にニュー・ラナークという町で大紡績工場の経営に乗り出しました。そこで彼は労働時間を大幅に短縮し、幼稚園を設置するなど、労働者を人間として処遇する諸施策を推進しました。その結果、工場の生産は飛躍的に増え、その成功ぶりを見学しようとヨーロッパ中から人が押し寄せるほどでした。また、彼は後に「労働者協同組合」の最初の設立者になりました。

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 たしかに現代は、オーエンの時代より労働条件はずっと改善され、労働者の生活は「豊かに」なりました。しかし、資本家による搾取と抑圧と差別というこの社会の本質はなに一つ変わっていません。そして、今では圧倒的に多くの人々に、この社会の矛盾と限界があらわになっているのです。社会主義は、もはや一握りの天才たちの理論的洞察ではなく、多くの人々の現実的課題になっています。ここに歴史の前進を認めることができるでしょう。 (続く)
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