2021年06月25日 1679号

【たんぽぽのように(19) 李俊錫現象 李真革】

 6月11日、韓国の政治史に刻まれる事件が発生した。第1野党である「国民の力」の全党大会で36歳の青年、李俊錫(イジュンソク)候補が新しい党代表に選出されたのだ。

 1985年生まれの彼は、代表的なエリート校のソウル科学高を経て、ハーバード大学を卒業。ベンチャー企業を創業し、教育奉仕団体で活動していた2011年、朴槿恵(パククネ)前大統領に抜擢され、政界入りした。長く「パク・クネキッズ」と呼ばれていた。

 彼は、国会議員選挙に3度出馬し、すべて落選。しかし、多くのメディアで積み上げた知名度で、最近は20〜30代男性の「反フェミニズム」の主張を代弁してジェンダー問題を前面に出し、最大保守野党初の30代の代表として選ばれた。

 党代表選挙戦では「能力主義」に基づく「公正な競争」を力説し、「合理主義」「実用主義」を強調。その延長線上に、政治分野の「女性割当(クォータ)制」を廃止することが「合理的」と主張した。

 以前の世代と比べ高いレベルの教育を受けながらも、20〜30代の青年世代は他の世代よりも不安定な生活を強いられている。その親たち―80年代民主化運動などに関わったいわゆる386世代≠フ地位が相続される社会構造はさらに堅固になった。「進歩」を自負する者たちが叫ぶ「公正」は結局、言葉だけだったことは過去の4年で確認できた。積もった不満は怒りと憎しみに変わっている。

 この李俊錫現象≠ナ確認できるのは、保守勢力の強い権力奪還意志だ。李俊錫氏は、朴槿恵元大統領の政治的地盤、大邱(テグ)・慶北(キョンブク)での遊説で弾劾の正当性を主張した。それでも保守層は彼を選択した。政権を変えるために決断したのだ。

 ろうそく∴ネ後、韓国社会は何が、どれほど変ったのか。

 引き続く性暴力事件でも示されたように性差別構造は相変わらずだ。労災で死亡する労働者の数は減らない。多数の「在日同胞スパイ」をねつ造した国家保安法も健在で、差別禁止法の制定ははるかに遠い。

 来年3月に行われる大統領選挙はどうなるか。

 それ以上に、どのような社会を作るかという目指すべきところ、守るべき価値について、常に問い直すことが私たちに必要なのではないか。美しい済州島(チェジュド)になぜ新たな海軍基地が必要か、なぜ空母を造るのかを問うように。(筆者は市民活動家、京都在住)
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