2021年06月25日 1679号

【あの竹中平蔵が五輪開催の旗振り/「世論は間違っている」と強弁/政商学者がまたも利権漁り】

 「世論が間違ってますよ。世論はしょっちゅう間違えますよ」。東京オリンピックの開催を支持する竹中平蔵(パソナグループ会長。元総務相)の発言が大ひんしゅくを買っている。さすがは新自由主義政策の指南役。自分の商売が第一で、人びとの命や健康はどうでもいいというわけだ。

開催は義務と公言

 ネトウヨ迎合の政治討論番組として知られる『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ。首都圏では放映されていない)。問題の竹中発言は6月6日の放送で飛び出した。

 「あの座長の発言なんかひどいじゃないですか。別に分科会がオリンピックのこと決めるわけじゃないのに、明らかに越権でね」。政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が、五輪開催に伴う感染リスク拡大を指摘したことがよほど腹立たしいようだ。

 竹中に言わせれば、大会の実施は五輪開催国の義務である。「日本の国内事情で世界のイベントをやめますということは、やっぱりあってはいけない。世界に対して『やる』と言った限りはやる責任がある」

 出演者の立川志らく(落語家)が「世論の6〜7割が中止だと言っている。世論が間違っているということ?」と聞くと、竹中はこう即答した。「間違ってますよ。世論はしょっちゅう間違えますから」

 同じく主演者の山口もえ(タレント)が「国民は緊急事態宣言等で我慢している。だから(五輪は例外扱いに)怒っているんです」と訴えると、「我慢しなきゃ仕方ない。それだったらコロナ菌に怒ればいいじゃない」と突き放した。

 当然批判が殺到したが、竹中は全く悪びれる様子がない。6月9日には自身のユーチューブチャンネルを更新し、「1920年のアントワープ五輪はスペイン風邪の世界的大流行下でも行われた」などと述べ、東京五輪は十分開催できると主張した。

 簡単に反論しておくと、ベルギーのアントワープで行われた大会の参加国・地域は29で、欧州諸国が3分の2を占めていた。欧州におけるスペイン風邪の流行は1920年には収束しており、開催への影響はほとんどなかった。コロナ感染が収まらない国が多い中、200か国も集めて行う予定の東京五輪とは、状況も規模も全く違う。

五輪で儲けるパソナ

 歴史ねつ造まで行い、竹中が東京五輪開催をアピールするのはどうしてなのか。答えは簡単。政商学者と言われる竹中にとって、オリンピックは新たな儲けの種だからである。中止になったり、感染対策で規模が縮小されては困るのだ。

 竹中が取締役会長を務める人材派遣大手パソナは、東京五輪・パラリンピックの公式スポンサーである。詳しく言うと、「人材サービス」カテゴリーにおけるオフィシャルサポーター契約を組織委員会と交わしている。東京大会の人材派遣業務を独占的に請け負っているということだ。

 しかも、ボロ儲けの度合いがすさまじい。パソナは運営スタッフの人件費単価を1日あたり最高35万円(管理・運営費を入れて42万円)で受託している。組織委のある現役職員は、もっと高い金額(80万円)を出している場合もあると証言する(TBS『報道特集』6月5日放送回)。

 だが、実際に支払われるのは日給換算で約1万2千円。42万円で請け負った仕事だと、中抜き率は97%に及ぶ。まさに究極のピンハネというほかない。パソナにとって東京オリ・パラが、いかに美味しい稼ぎ時であるかがわかる。


コロナで利益10倍

 パソナはコロナ禍で「我が世の春」を謳歌している。2021年5月期の連結営業利益は過去最高の175億円にのぼる(前期比65%増)。純利益は約62億円、前年比約10倍増という驚異的な伸びだ。

 大幅に利益を伸ばした事業は「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス」。公的機関や企業からの業務プロセスの全てを請け負うサービスで、利益率の高さが特徴である。パソナは官公庁や自治体のコロナ関連事業を多数受注しており、それで大儲けしたということだ。

 同じコロナ対策支出でも、雇用調整助成金の支給などの雇用維持策には竹中は反対している。コロナ倒産・失業は持論の「雇用の流動化」のチャンスであり、政府は余計なことをするな、というわけだ。

 雇用情勢が悪化したほうが労働者を安く使い捨てしやすくなるというのが資本主義の道理だ。この本音を臆面もなく口にし、政策に落とし込み、実行できるからこそ、竹中は歴代政権の経済ブレーンとして重用され続けてきたのである。

国家私物化の権化

 竹中は新自由主義を信奉する経済学者として、政府の規制緩和・民営化路線をリードしてきた(現在も国家戦略特区諮問会議の有識者議員)。小泉内閣では総務大臣に登用され、郵政民営化を推進した(この時の副大臣が菅義偉現首相)。

 さらにはパソナ会長、オリックス社外取締役など経営者の顔も持つ。つまり、「自分で決めて、自分で儲ける」という国家私物化システムの象徴的人物なのだ。その竹中が東京五輪の中止を求める世論にイラ立っている。この事実をみても、五輪が利権漁りの場であることは明白だろう。

  *  *  *

 「底知れない人間の能力というものを感じた」。菅首相は国会の党首討論(6/9)で1964年の東京五輪の「感動」を長々と語り、五輪開催の意義を訴えた。しかし今の五輪からは「新自由主義をたてまつる人間の底知れない強欲さ」しか伝わってこない。竹中発言がその例である。

 最優先すべきは人びとの命と健康だ。マネーファースト五輪ではない。(M)

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