2021年07月02日 1680号

【コロナ禍 高齢者を不安定労働者へ 労働法の適用なきフリーランス化狙う菅政権】

 菅政権は3月26日、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省合同で作製した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)を公開した。

 その書き出しは「フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待される」。「高齢者雇用の拡大」「健康寿命の延伸」「社会保障の支え手・働き手の増加」と、フリーランスと高齢者を結びつけているところに政府の狙いが浮かび上がる。

高齢労働者を無権利に

 2015年前後から欧米、韓国など世界各国で、フリーランスの問題が大きく浮上してきた。AI(人工知能)による「第4次産業革命」「プラットフォーム労働」が広がる中で、従来とは異なる働き方が登場し、フリーランスという働き方が増加してきた。従来の標準的雇用関係(長期、直接、フルタイム)とは異なる不安定な働き方だが、その多くは、既存の標準的雇用に就くことが困難な若年層と考えられてきた。特に、ウーバー・イーツなどギグ・エコノミーの拡大と結びつく多くは若者だといわれた。

 ところが菅政権は、高齢者の多くを生活できない低い年金水準に置く一方、少子化で不足する労働力を補うために、急増する高齢者を不安定で劣悪な条件で働かせるという、いわば一石二鳥≠フあくどい意図を持ってフリーランス化を進めようとしている。

 それと連動して4月に施行された高年齢者雇用安定法改定は、高齢者を労働法や社会保障法の適用を受けず無権利なままで働かせる道を拡大するものであった。これまでの定年延長や雇用継続とは異なり、70歳までの業務委託契約や雇用によらない創業支援措置などを新設し、高齢者フリーランスを生み出す法的整備を行ったのだ。

 「ガイドライン」は、従来の政策を踏襲している。それは、「個人請負」形式で最低賃金法の適用もなく、労災保険の適用もなかったシルバー人材センター就労者の状況を広く行きわたらせることにしかならない。


世界は雇用弱者保護へ

 コロナ禍が広がる中で、ILO(国際労働機関や)EU(欧州連合)は「雇用脆弱層」の保護強化を提起している。この雇用脆弱層には、有期雇用、派遣労働、オン・コールワーク(ゼロ時間契約)などともに偽装雇用(名ばかり個人事業主)や自営業形式の就労者が含まれ、その保護が重視されている。

 欧州では、こうした自営業形式労働者などへの労働法・社会保障法の拡大が進められている。たとえば労災保険では、自営業形式のギグ・ワーク労働者の強制加入を義務づける法改正が、フランス(2016年法)やイタリア(2015、2019年法)で行われた。

 韓国でも、「特殊雇用」と呼ばれる自営業形式の労働者について、労災保険(産業災害保険)加入を義務づけ、労災保険料については労使折半としている。さらに労災だけでなく、雇用保険についても自営業を含む「全国民雇用保険」の政策がとられている。コロナ禍でフリーランスへの保護の必要性が明らかになったからだ。

 ところが、日本の「ガイドライン」では、労働法適用のための「労働者性」判断についても、横行する名ばかり個人事業主形式の偽装請負などを実質容認している現行の判断基準を維持するだけだ。また、「労災保険特別加入」(保険料は労働者が全額負担)も一部職種に限って認めるだけにとどまっている。

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 今回の「ガイドライン」は、欧州や韓国など世界の労働者保護の状況からはあまりにもかけ離れている。政府が進めるフリーランス対策は、高齢者を中心として不安定・劣悪な「非雇用」就労者を大きく増やすことにつながる。世界の動向を踏まえ、憲法が定める生存権・労働権保障に応えたフリーランス対策に抜本的に転換することが必要だ。
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