2021年07月16日 1682号

【行き詰るリニア/静岡知事選でも民意はNOだ/工事中止 地域の足守れ】

 6月20日に投開票された静岡県知事選で、リニア工事に伴う大井川からの水問題解決を訴えていた現職・川勝平太知事が自民推薦の元国交副大臣を破り4選。民意はリニアに改めてノーを突きつけた。


ウソ重ねるJR東海

 静岡県にとって大井川からの水は生命線だ。リニア新幹線「南アルプストンネル」が現状の実施計画のまま着工された場合、大井川からの流量は毎秒2dも減少するとした試算がある。1日に17万2800d。1年9か月で群馬県・八ッ場(やんば)ダム(貯水量1億750万d)一杯分の水が失われる計算になる。静岡県民の怒りは当然だ。

 JR東海は「水は涸れない」「減った分の水は全量戻す」など主張をコロコロと変え、静岡県から説明を求められると「全量は戻せない」「山梨県側に水は戻る予定なので流量減少ではない」などと言い繕った。ウソを重ねてきたJR東海を今さら信用などできない。

名阪間は「白紙」

 JR東海が財政投融資から3兆円もの巨額の融資を受けたのは、名古屋〜大阪間の工事を前倒しするためというのが表向きの理由だ。だが、あるJR東海関係者が経営幹部に名阪間の工事予定を尋ねると「未定」との回答があったという。交通技術ライター・川辺謙一は、試験走行中のリニアで電磁石の磁気が瞬間的に抜ける「クエンチ」現象が起き、抜本的な対策方法もないままJR東海が隠しているのではないか、と指摘する(「超電導リニアの不都合な真実」草思社)。

 2014年10月の事業認可から6年半。一部区間では工事も始まった段階になってこのような基本的、技術的課題が提起されること自体、国交省による事業認可時の審査のずさんさを示している。JR東海は事業実施主体としてこの疑問に答える義務がある。

 財政投融資3兆円の使途について、JR東海は「中央新幹線の建設に係る費用は財投資金から先に充当」し自己資金は使わずに温存しておくという驚くべき説明を行っている(2018年版「決算説明資料」)。こうしたやり方は目的外使用に当たらないのか、との本紙の取材に、財務省は「品川〜名古屋間の工事について必要となる金額を融資し、名古屋〜大阪間の工事にJR東海が速やかに着手することが可能となる」として貸し付けるのは違法ではないと回答した。3兆円は使用目的を名阪間の工事に限定していないというのだ。こんないい加減なやり方でペテン企業・JR東海を助ける財務省も同罪だ。

 リニア工事の遅れは静岡県が原因とする誤った報道が行われているが、静岡県外でも工事が大幅に遅れ、開業のめどは立たない。

「アベ友」の暗躍

 こんなでたらめがまかり通るのも、葛西敬之・JR東海名誉会長が「アベ友」だったからである。

 葛西は、国鉄分割民営化当時、職員局長として国鉄職員首切り、国労潰しに直接関わった。国家公安委員在任中の2010年にはヘイト集団「在特会」を「適正に評価」すべきと擁護した。「道路も航空網も完成した今、鉄道から道路への転換が出るのは当然」と主張し、でたらめなやり方でリニアを推進する一方、地元が切実に存続を望む地方路線の廃線を主導してきた。

 2021ZENKOin大阪は、リニア・新幹線建設阻止、鉄道再国有化を分科会で討議する。鉄道政策転換につなげていく場となる。
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