2021年07月16日 1682号

【「五輪中止」が多数派なのに/観客数に論点をずらす政府/共犯メディアは印象操作】

 新型コロナウイルス感染が再拡大している。最も深刻なステージ4(感染爆発)相当に達した東京都に対し、政府は緊急事態宣言を出さざるを得なくなった。東京五輪は原則無観客とのことだが、本当に決断すべきは大会の中止である。菅政権の論点ずらしに加担したマスメディアの罪は重い。

第5波直撃は必至

 東京都は7月1日に新型コロナウイルスのモニタリング会議を開き、今の感染拡大のペースが続くと4週間後には都内の1日あたりの新規感染者が1000人を超えるとの見通しを示した。感染状況は「第5波」に入ったということだ。

 厚生労働省に助言する専門家組織の会合(6/30)でも厳しい声が相次いだ。京都大学などによる試算によれば、デルタ株の影響が中程度で人出が今のままという「楽観的なシナリオ」でも、8月4日頃には1日の感染者数が2000人を超える。8月中旬には入院が必要な患者数が確保した病床数を上回るという。

 「国民の安全安心が最優先」(菅義偉首相)と言うならば、このような状況下でオリンピック・パラリンピックを行ってはいけない。実施すれば国内の感染拡大に拍車がかかることは確実だし、変異コロナの脅威を世界中に拡散することにもなりかねない。

 悪しき先例がある。ヨーロッパではサッカー欧州選手権がらみのコロナ集団感染が相次いでいる。世界保健機関(WHO)によると、開催都市での観客の交流、移動、規制の緩和が背景にあるという。

 英北部スコットランドの保健当局は、6月11日〜28日にかけて1991人がサッカー観戦を通じて新型コロナに感染したと発表した。英国はワクチンの接種率が60%を超えている。それでも、デルタ株と巨大イベントのダブルパンチで感染が再拡大しているのだ。

 ブラジルではサッカー南米選手権が無観客で開催されたが、選手やスタッフのコロナ感染が多発し、「死のチャンピオンシップ」と批判された。選手らの行動範囲を限定する「バブル方式」の中で集団感染が起きた。バブルが弾けない保証はどこにもない。

世論を歪める報道

 有観客開催に固執してきた菅政権も、さすがに軌道修正に入ったようだ。7月2日付の読売新聞は「政府と東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は、大規模会場や夜間に実施される東京五輪の一部競技を無観客とする方向で調整に入った」と報じた。

 しかしなぜ、観客の数あるいは有無が焦点なのか。ワイドショー番組では田崎史郎(政治評論家)と橋下徹(元大阪府知事)が「有観客か無観客か」でやり合っていたが、茶番劇もいいところ。常識的に考えれば、パンデミック下での五輪開催自体があり得ない。命を守るための最良の選択は中止なのである。

 だが、菅政権は開催を前提とした観客数問題に論点をすり替え、マスメディアはこれに加担した。手口の一つに世論調査を使った印象操作がある。読売新聞やNHKは、開催についての設問から「再延期」の選択肢をなくした。「今年の夏は無理」との声を結果に反映させないためだ。

 結果はこうである(読売新聞調査/6月4日〜6日実施)。「観客数を制限して開催」24%、「観客を入れずに開催」26%、「中止する」48%。小細工をしても「中止」が最も多い。ところが「読売」は「東京五輪『開催』50%、『中止』48%」と報じた。極端な情報操作というほかない。

 社説で「今夏の五輪開催中止」を求めた朝日新聞はどうか。都内の有権者を対象に調査したところ(6月26〜27日実施)、結果は「今夏に開催38%、再び延期27%、中止33%」であった。それなのに「朝日」は「五輪開催なら『無観客』64%」を見出しに選んだ。今夏の開催に反対する声が今なお6割あることは強調したくないらしい。

コロリンピックはダメ

 「読売」や「朝日」などの全国紙が東京オリ・パラの公式スポンサー(オフィシャルパートナー)であることは有名だが、実は大会組織委の中にある「メディア委員会」には大手新聞・テレビの経営幹部陣がずらりと顔をそろえている。利害共同体に取り込まれているということだ。

 よって、たとえ無観客開催になっても、マスメディアは五輪の盛り上げに総力を挙げるだろう。事実、NHKは過去最大の放送時間を計画している(地上波で約430時間。衛星放送を含めると1200時間超)。視聴率稼ぎという点では無観客はむしろ好都合だ。

 もっとも「お祭り騒ぎ」の演出でコロナ禍が吹き飛ぶはずがない。「コロリンピックで感染大爆発」という不条理劇の幕を開けさせてはならない。  (M)

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