2021年07月23日 1683号

【読書室/ヘイトをとめるレッスン/ホン・ソンス 著 ころから 2200円(税込2420円)/共存できる社会をつくる】

 著者は韓国におけるヘイト問題の第一人者であり、包括的差別禁止法の制定に取り組む法社会学の学者である。ヘイト問題にかかわり始めたのは、韓国のネット上で極右サイトが立ち上がり特に女性嫌悪を振りまき始めた2012年から。

 自ら「韓国のマジョリティ」「正規職の男性労働者であり、非障がい者であり、異性愛者」と記す著者だが、マイノリティの話に耳を傾け少しずつ変わっていく。本書の原題が『ことばが刃になるとき』とあるように、「ヘイト表現ということばが刃になり、暴力になり、魂を殺す」と強調する。

 日韓共通の課題としてのヘイト表現が氾濫する背景には、貧困格差やコロナ禍など社会経済危機をマイノリティの責任に転嫁しようとする動きがある。

 著者は、ヘイト表現をとめるための刑事罰による規制は、マイノリティへの暴力、虐殺につながる憎悪扇動に限定すべきだとする。でなければ、権力者による言論弾圧、表現の自由の侵害につながるからだ。表現の自由を増進させながらヘイト表現をとめるためには、ヘイト表現を生まない「環境形成する規制」、人権教育や広報活動、そして、ヘイト表現を社会的に孤立させる対抗表現を広げることが重要と主張する。

 政治の責任も重要だ。白人至上主義団体の暴力をあおったたトランプや、在特会の嫌韓デモを暗黙で支持した安倍、後に謝罪したものの大統領選で「同性愛に反対」と公然と発言した文在寅(ムンジェイン)など、国の指導者の態度が社会にヘイト容認の状況を生み出しているのだ。

 著者は、ヘイト表現問題を提起するのは最終的に「共存できる社会」をつくるためだ、と結ぶ。(N)
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