2021年07月30日 1684号

【辺野古サンゴ訴訟 最高裁が県の上告却下/初めての2裁判官反対意見/知事の設計変更不承認に追い風】

許されない汚染水放出

 「PFOS(ピーフォス)」。本土では聞きなれないが、沖縄では4〜5年前から毎週のように新聞に取り上げられる深刻な問題だ。沖縄の米軍基地問題は挙げればきりがないが、このPFOS問題は深刻なうえに一刻を争う。米軍基地から漏れ出した毒物=有機フッ素化合物が飲み水を供給する多数の自治体の浄水施設に浸み込んでいることが2017年3月、県の調査でわかった。

 1960〜70年代、公害が大きな社会問題となり、化学物質の廃棄や放出には厳しい基準が設けられて政府も企業も対処してきたはずだった。ところが米軍基地には、そうした基準は通用しなかった。

 PFOSは、発がん性や胎児・乳児の発育障害の原因となる危険性が指摘されている有機フッ素化合物の一種。国内では製造・使用を禁止。米国内でも厳しい管理下に置かれているが、米軍基地内の泡消火剤に含まれていることが判明。嘉手納基地や普天間基地周辺の河川の水質調査が繰り返し続けられている。

 ところが7月8日、在沖海兵隊は、普天間飛行場のPFOSを含む汚水を下水道に放出するため防衛省や環境省と調整していると新聞発表した。暫定指針値以下に薄めるから大丈夫≠ニ米軍に説明されても納得いくわけがない。さらに今年6月、那覇市の航空自衛隊基地からもPFOSを含んだ泡消火剤の泡が近隣住宅地に流れた事件が発生。自衛隊は当初その事実さえ認めなかった。米軍、自衛隊、日米両政府の説明は信じることなどできない。汚染水が体内に入れば有害物質が蓄積される。米軍基地からの汚染水の放出を断じて許してはならない。

5裁判官中 反対2人

 辺野古新基地建設のための埋め立て海域にサンゴ類が群生する。このサンゴを切り取って別の場所に移植するという沖縄防衛局のサンゴ特別採捕許可申請について、沖縄県は新基地を建設するためにサンゴを移植するのは認められない申請として判断を保留にしてきた。沖縄防衛局長は農林水産大臣に県に許可するよう是正を指示することを働きかけ、農水相が「是正指示」。県はこれを「国の違法な関与」として取り消しを求めた訴訟の最高裁判決が7月6日、行われた。

 判決は、防衛局は、護岸工事をしなければならない立場でありサンゴ類の移植は必要、だから県の主張は妥当性を欠くというきわめて不当な内容だった。

 しかし、今回の最高裁判決では、裁判官5人のうち宇賀克也裁判官と宮崎裕子裁判官の2人が次のように反対意見を述べた。▽サンゴ移植の許可処分を行うには大半を軟弱地盤が占める大浦湾側で確実に事業(埋め立て工事)が実施されることが前提になる▽是正の指示を出した時点では、まだ埋め立て変更申請は出されていなかった▽沖縄県が変更申請を不承認することが考えられ、その場合事業の目的は実現されず「県は裁量権の範囲の逸脱または乱用とは言えない」▽さらに変更申請が不承認となった場合、「サンゴ類の移植は無駄になるばかりか、生残率は高くなく、水産資源保護法にも反する」―。県の主張をほぼ全面的に認める判断を最高裁の判事2人が示したのだ。新基地をめぐる訴訟で国に対して最高裁で反対意見が出されたのは今回が初めてだ。

いよいよ県の不承認へ

 同日、玉城デニー知事は「これまで県が主張してきたことは、行政法の観点から合理的で正当性があると確信した」と強調。近づく設計変更申請の不承認という判断に、この2人の反対意見は追い風だ。

 また、全国知事会は6月、地方自治体が行った処分に対し、国が異を唱えられる「裁定的関与」の見直しを求めることを決定した。ここ数年続く、沖縄県に対する国からの強圧的な行政処分に知事会から強い危機感が示されたものだ。

 辺野古埋め立て設計変更申請への県の不承認がいよいよ裁決される。 (N)



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