2021年08月06日 1685号

【21年防衛白書 ケンカの売り文句満載/「台湾問題」初記述で緊張あおる/対話にはまず軍事費削減を】

 2021年度版防衛白書が7月13日閣議了解された。表紙には若者に人気の墨絵アーティストによる「騎馬武者」を採用し、若年層への接近を試みている。だが所詮、防衛省の広報誌。危機を煽り、軍備拡大を正当化するためのものだ。今年の主な材料は「台湾問題」。政府は米中対立に便乗して、軍事費のさらなる増大をはかろうというのである。

軍拡に必要な「脅威」

 今年度の白書には「諸外国の防衛政策」の章に「米国と中国の関係」の節が追加された。「台湾をめぐる米中間の対立は一層顕在化していく可能性がある」と米国の対中強硬戦略がバイデン政権下でも継続されることを強調している。

 米政府が中国への警戒感を顕にするようになったのは、中国経済が急伸し米国経済を脅かすようになってからだ。「世界第1位の経済大国である米国と第2位の中国との関係については、中国の国力の伸長によるパワーバランスの変化…」と米グローバル資本の権益に手をかける中国資本を早期に抑え込む構図を「わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」とわがことのように受け入れている。

 経済的利害は米国と同じではない。にもかかわらず、米中軍事対立の構図に便乗し、軍備拡充に利用しようとしているのだ。ことさらに「中台の軍事バランス」を持ち出し、台湾がいまにも中国に軍事制圧されそうな危機感を煽るのも、「対中包囲網」演出一つだ。




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日米軍事一体化

 今回、中国批判のトーンを強めたのは岸信夫防衛相の意向によるものだという(7/14毎日)。

 岸自身、巻頭言で「中国は東シナ海や南シナ海において、一方的な現状変更の試みを続けている」との認識を示し「強権をもって秩序を変えようとする者があれば断固としてこれに反対していかなければならない」と中国への警告に多くの行数を割いた。

 岸は実兄安倍晋三前首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」を何かと強調し、対中軍事緊張の演出に余念がない。意味するところは、中国を仮想敵国にした日米軍事一体化に拍車をかけることにある。自衛隊を侵略軍へ脱皮させる近道だからだ。

 本文には詳しい記載を避けているが、巻末資料によれば、20年度の「主な日米共同訓練」は49回(19年度33回)にも及ぶ。南シナ海での海上演習や東シナ海上空での空軍機の演習などが目立つ。自衛隊はほぼ年中、米軍の指揮下で訓練を重ねている。

 軍事訓練だけではない。九州・奄美から与那国に至る琉球弧・南西諸島に急増されているミサイル基地、レーダーサイトは中国を向いている。韓国ソソンリに建設中の米ミサイル基地と合わせ、対中ミサイル包囲を形成している。辺野古新基地は日米共同使用を想定したものだった。

緊張あおる政治

 「台湾問題」とあわせ「脅威」として語られるのが「尖閣諸島」。白書には、昨年1年間に尖閣諸島周辺の接続水域で確認された中国公船の活動を取り上げ、「活動日数が333日、活動船舶数が延べ1161隻となり、いずれも過去最多となった」と緊迫度が増しているかのような書きぶりだ。だが、月平均の活動日数をみれば最も激しかったのは12年9月、尖閣を国有化した直後の1年だ。今は半減。「だいぶ沈静化している」(泉川友樹琉球経済戦略研究会事務局長7/19日刊ゲンダイ)のが実態だ。

 日中間には「対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに危機管理メカニズムを構築し不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た」(14年「4項目合意」)との確認事項がある。これが事態の沈静化に一定貢献している。

 だが、沈静化しては困る者たちがいる。好戦性を売りにする政治家たちだ。麻生太郎副総理は自身の政治資金パーティ(7/5)で「台湾の次は沖縄」と中国の侵略意図を吹聴し支援者の受けを狙った。政治家のパフォーマンスは、台湾、尖閣、沖縄を一緒くたにして、冷静な対話を吹き飛ばす。早速、産経新聞は「米台軍への日本の後方支援、自衛隊の行動を準備するのが抑止力」(7/16主張)と戦意を煽っている。

 それもこれも、軍事費拡大への布石だと見なければならない。岸は白書公表後「これまでとは抜本的に発想を変えた形も必要になる」と語り、8月の来年度予算要求への意気込みを示した。

 表紙の騎馬武者は「強固な防衛意思」を表現したのだそうだ。一見して皇居外苑に建つ「天皇の忠臣楠木正成像」を思い起こさせる。いったいどんな「防衛意思」なのか。「専守防衛」を掲げ侵略軍に変貌する自衛隊の姿だと見れば、表紙の意味はよくわかる。

   *  *  *

 白書は「気候変動」さえも紛争の火種として「安全保障上の課題」ととらえている。地球全体の危機に対し、あくまで国家間の対立としてしか描かないのが軍隊の発想だ。この発想こそ抜本的転換が必要なのだ。軍備縮小こそ環境対策の有効策だ。軍事費削減にむけた協議こそ求められている。

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