2021年08月13・20日 1686号

【「黒い雨」訴訟 被爆認定を拡大 画期的な高裁判決が確定 菅首相が上告断念を表明】

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」で健康被害を受けながら、国の援護対象区域外にいた84人が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決(7月14日)で、広島高裁は84人全員に交付を命じた広島地裁判決を支持し、国側の控訴を棄却した。

 当初、国は被告の広島県と広島市に対し上告するよう圧力をかけたが、県と市は被害者の高齢化などを理由に、上告断念と幅広い救済への「政治判断」を国に求めていた。7月26日、菅首相は上告をせず、速やかに原告の救済にあたること、同じような立場にある被害者の救済についても検討していくことを表明した。

 国の上告断念によって確定した広島高裁判決の画期的な内容を確認しよう。

黒い雨の範囲を広く認定

 国は爆心地の北西側にある楕円状の範囲に大雨が降ったとする調査に基づいて援護対象区域を指定し、原爆投下時にその区域内にいて、かつ、がんや白内障など11の疾病を発症した人に限定して健康手帳を交付してきた。

 しかし、黒い雨が「大雨地域」よりも広範囲であったことは、広島市が2008年に実施した大規模な「原爆体験者等健康意識調査」で明らかになっていた。

 高裁判決はどう判断したのか。判決は、黒い雨が実際に降った雨域は、国が固執する「大雨地域」よりも広範囲だったとし、個別に検討した結果、原告らは「雨が降り始めてから降り止むまでのいずれかの時点で、当該黒い雨降雨域に所在していたと認められるから、原爆投下後の黒雨に遭ったと認められる」とした。

疾病の発症は問わず

 一審(広島地裁)判決も、「大雨地域」よりも広い範囲に黒い雨が降ったことを認め、原告らが黒い雨が降った区域に居たことを認めている。ただ、その一方で、がんや白内障など11の疾病を発症していることを被爆者認定の要件とした。

 これに対し高裁判決は、黒い雨には放射性降下物が含まれていた可能性があるから、黒い雨に直接打たれていなくても、空気中の放射性微粒子の吸引や放射性微粒子が混入・付着した水・野菜の飲食で、内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があったとし、内部被ばくは長期にわたって健康被害をもたらすものであり、現に疾病を発症しているかどうかを問題にすべきではないとした。

 そして、以上から広島市長および広島県知事が原告らの被爆者健康手帳の交付申請について却下処分をしたのは違法であり、却下処分を取り消し、被爆者健康手帳を交付すべきであると結論づけたのだ。判決は、「本来、被爆者として手帳を交付すべきだったにもかかわらず、あえて交付しなかった疑いが強いと言わざるを得ない」とさえ述べた。


内部被ばくの可能性言及

 菅首相は断念の翌27日に発表した談話で、判決の内部被ばくを認めた部分について「政府としては容認できるものではない」と述べ、厚労省の担当者も「一義的には広島の黒い雨での対応で、長崎は少し別の問題になる」(7/28朝日)と、影響の広がりをけん制するのに躍起となっている。

 だが、上告断念によって高裁判決は確定した。高裁判決が、原爆による内部被ばく被害の可能性を認めたことは、「大雨地域」を絶対視する、これまでの誤った被爆者行政の根本的な見直しを迫るものであり、当然長崎の被爆者認定についても見直すのは当然だ。

 また、福島原発事故でも、政府が勝手に線引きした「年間20ミリシーベルト」以下の地域では健康に影響はなく避難する必要もないとされ、「線引き」の内外で支援内容や賠償額にも大きな差がつけられている。

 内部被ばくによる健康被害は、福島原発事故にも当てはまる。事故で放出された放射性物質はセシウム137で比較すると広島型原爆の168個分(保安院)といわれるが、福島県では小児甲状腺がんの多発すら放射線被ばくとの関係は否定されており、それ以外の疾病については調査も行なわれていない。未だ明らかになっていない健康被害があると見なければいけない。

 確定した高裁判決を活用し、被ばくによる健康被害を小さく見せ、被害者を分断する国の不当な政策に風穴を開けていこう。 
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