2021年08月13・20日 1686号

【ゴンチャロフの過労自死事件 和解解決/二度と会社に過ちを起こさせない】

 7月31日、「ゴンチャロフ前田颯人(はやと)さん長時間パワハラ過労自死事件(注)の解決を求める会」と「過労死等防止対策推進兵庫センター」の共催で、長時間パワハラを認め謝罪・処分などの和解を実現した解決報告集会が神戸市内で行われた。

5年間の闘いを踏まえて

 小林正義「解決を求める会」事務局長が解決の力となった運動の到達点について「『会』には、労働組合・市民団体など7団体、個人239人が協力し、会社に対する『労災認定を真摯に受け止め社会的責任を果たせ』署名は団体313筆、個人3、978筆、社長に対する『心からの謝罪と全面解決』要請ハガキは約1千通を届けた」と報告。

 続いて竹村務同会会長は「5年前の6月24日に、時計を巻き戻したい。彼が亡くなったような事件を二度と起こしてはならない。それが私たちの原点だ。2年間かかって労災認定させたが、会社はパワハラと長時間勤務を認めない。以降、六甲道駅前を中心に、署名活動、ビラまき、ポスティング。署名やハガキを届け、ようやく認めさせた。やっと彼の尊厳が守られ、会社の上司2人は処分を受けた。颯人くんへの大切な命や思いをみなさんの胸に持ち続けてほしい」と思いを述べた。 

和解解決は運動の力

 和解の経過と内容を解説したのは八木和也弁護士。

 2020年1月、第三者委員会の調査が始まったが、会社はパワハラは認めたものの会社調査での隠蔽などは認めなかった。同年9月の労災認定基準の改定で、上司によるパワハラが入り「長時間にわたる厳しい叱責、大声での威圧的な叱責」だけでも、労災認定される道が開かれた。

 本年6月11日、▽颯人くんの仏壇の前で社長が謝罪する▽関係者が謝罪文を書く▽問題の上司や監督者であった工場長を懲戒処分する▽母・和美さんがゴンチャロフの工員の前で講演会をすることを認める▽これから20年間かけてパワハラと長時間労働をなくすための取り組みを続け、毎年命日頃に和美さんに報告する―などを内容とする和解が成立した。八木弁護士は「運動の力が非常に大きかったので、ほぼ100%の解決になった」と語る。

 母・和美さんも「身内からも私の体調を心配されていた。“パワハラはあったんだよ。長時間労働はあったんだよ。それを会社が認めるまでは折れない曲げない”と、芯はあったけれど、支えてくれたのは『会』のみなさんの存在。解決はしたけれども、あの子は帰ってこない。今度は私が支える立場で、力になっていきたい」。会場から応援の拍手が送られた。


職場からの闘いは続く

 阿部雄介ゴンチャロフ労働組合執行委員長は、これからの闘いの決意を語った。「2017年のシンポジウムの前日に竹村委員長(当時)から『労働組合に入って、この事件を一緒に解決しないか?』と誘われたのが関わりの始まり。前田くんの事件を機に、彼と親しかった若手社員が次々と辞めていった時の会社の言葉や、パワハラした上司を会社が嘘を言って庇(かば)っていたことが本当に許せないと思い、組合攻撃を受けながらも交渉を続けてきた。解決できて本当にうれしい。しかし、会社はすぐに変わるものではない。ゴンチャロフ労組として、がんばっていきたい」。

 パワハラと長時間労働をなくす職場での闘いは始まったばかりだ。

(注)前田颯人さん過労自死事件とは

 2014年にゴンチャロフ製菓(神戸市灘区)に入社した前田さんは16年6月24日、通勤途上で電車に飛び込み20歳の命を絶った。月最大110時間にも及ぶ大半が未払い残業の超過勤務を強いられ、特定の上司より非難や恫喝、無視など執拗なパワハラを受け続けていた。「もう辞めたい」と申し出ると「辞めるなら、もうお前の学校から採用せん」と脅され、辞めることも逃げることもできない状況に追い込まれた末の自死だ。理不尽を訴えた母親の思いに応え、ゴンチャロフ労組と「解決を求める会」、弁護士などが共に闘い、この6月、和解が実現した。

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