2021年08月27日 1687号

【菅の本音が見えた「読み飛ばし」/核兵器禁止条約に背を向ける】

 菅義偉首相が広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式のあいさつで、原稿を読み飛ばす一幕があった。式典終了後に行われた記者会見の場で認め、陳謝した。

 読み飛ばしたのは「核兵器のない世界の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」などのくだり(表参照)。このため、首相あいさつは「日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない、核軍縮の進め方を巡っては、各国の立場に隔たりがあります」という意味が通らないものになった。

 首相周辺は「原稿の紙がくっついて剥がれなかった」と釈明するが、最低のいいわけと言うほかない。おかしな文章になっていることに、なぜ気づかないのか。自民党のベテラン議員が「頭を全く使わずに喋ってることの表れだよ。総理が自分の言葉で話してないから伝わらないし、こういうことが起きる」と指摘するとおりである。

 菅首相はこの手の間違いが実に多いが、ミスの中に真実が見てとれるケースがある。たとえば、まん延防止重点措置を適用する県を追加した際の記者会見(8/5)では、「不要不急の外出の徹底」と言い間違えた。コロナ感染防止よりも経済を回すことに関心があることの証しだろう。

 では、広島のケースはどのような本心が出てしまったのか。今年1月に発効した核兵器禁止条約の拒絶である。すべての核兵器の開発や実験、使用などを禁じる初の国際条約に、日本は参加するつもりはないということだ。

 実際、菅首相は広島や長崎の式典あいさつで、核兵器禁止条約にまったく触れなかった。面会に訪れた被爆者団体が、条約署名や批准、締約国会議へのオブザーバー参加を求めても、一顧だにしなかった。

 政府は「核保有国と非保有国の橋渡し役」を自称するが、核軍縮をリードする気概はみじんもない。本音の部分では「核抑止力の正当性を損なう条約など認められない」と思っている。菅自身もそうだ。だから、核兵器のない世界の実現に向けて尽力するとのくだりを読み飛ばしても、違和感がないのであろう。

   *  *  *

 広島での失態から3日後、菅首相は長崎の平和祈念式典に「時間管理上の問題」で約1分遅刻した。実はトイレに立ち寄ったためだった。式典がよほど嫌だったのか。案外わかりやすい男なのかもしれない。(O)

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