2021年08月27日 1687号

【新型コロナ/菅政権の「原則自宅療養方針」/犠牲者増必至/臨時病棟つくり医療下で保護を】

 新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大によって、東京都では8月12日時点で、国基準(注)の重症者978人、重症病床使用率が81・0%に達した。軽症・中等症患者も含む全入院重点医療機関6406床のうち半数を超える3641床が埋まっている。また、宿泊療養も3060室に1778人が利用しており、6割が埋まった状態だ。自宅療養者は7月初旬の1千人台から2万1732人。入院・療養等調整中(実質は自宅)1万2574人を合わせれば3万人を大きく超え、過去最大数を更新し続けている。

 自宅療養者の症状が進行し、救急車を呼んでも搬送先が見つからず、在宅を続けざるをえない状態だ。宿泊療養先は4割が空いている形だが、看護師等が確保できず、使用できていない。その結果、報道によると8月1〜5日に在宅死亡者が少なくとも9人出ている。このままだと、次々と犠牲者が出かねない。

自宅療養方針に批判噴出

 7月後半からのこの急拡大を目の当たりにした菅義偉(すがよしひで)首相はどう動いたか。

 8月2日、これまでの原則だった入院・宿泊療養を「重症者など以外は原則自宅療養」とした。3日、田村憲久(たむらのりひさ)厚生労働大臣は「中等症でも比較的(症状が)軽い方は在宅(療養)をお願いしていく」と述べた。

 これは全く理屈に合わない。新型コロナウイルス感染症は、制度上、原則入院隔離の対象だ。だが、感染拡大と感染症指定医療機関不足で入院隔離先を準備できない政府が「宿泊療養」という手段を編み出し、施設が足りなくなると例外として「在宅療養」で我慢させてきた。その結果、家庭内感染などの感染拡大を引き起こし、医療逼迫(ひっぱく)を招いた。その医療逼迫を理由にまた対策を緩め、「在宅療養」を原則とするという。

 「第4波」では、「医療崩壊」ともいうべき状態となった大阪をはじめ関西が最も深刻だった。在宅療養中の急変で3〜6月の間に48人が亡くなっている(6/9毎日)。今回の感染拡大は、人口がはるかに多い首都圏が中心だ。すでに感染の大部分となっているデルタ株は、急激に症状が悪化すると言われてきた。

 田村厚労相は「場合によっては在宅で酸素吸入することもあり得る」と言う。確かに慢性疾患で在宅酸素療法をする人はいるが、呼吸不全の状態であり「人生で一番苦しい」状態だという医師もいる(図)。まして急変の可能性が高い新型コロナで在宅はあり得ない。



 政府の「原則在宅」の方針は、新型コロナ感染症対策分科会尾身茂会長も「相談されていない」という。安倍政権の「全国一斉臨時休校」と同様に、またも政権の行き当たりばったりの思い付き「対策」だ。そんなでたらめで命を危険にさらさせてはならない。

 「原則在宅」には、野党、全国知事会が抗議。公明党・自民党からさえ批判が噴出し、結果「中等症は原則入院」としたが、完全に撤回したわけではない。ただちに撤回すべきだ。

感染者は医療の下に

 今回の措置に田村厚労相は「医療資源は短期間に急に増えない。先手先手を打って対応している」と開き直る。新型コロナ患者国内発生から1年半。全く「急」ではない。感染症対策そっちのけで五輪にかまけ放置してきた責任は重い。

 ワクチン接種一辺倒は危険だ。7月30日、米国マサチューセッツ州で発生したデルタ株クラスターは、74%がワクチン接種済みだった(米疾病対策センター発表、7/31読売)。菅は無策を改め、大規模検査、積極的疫学調査、隔離・保護といった基本的な感染症対策に立ち返るべきだ。

 今からでも可能だ。2020年1月最初の大規模感染に直面した中国・武漢では、2週間で4千人収容の臨時病棟を建設して隔離・治療にあたり、急拡大を抑えた。米国ニューヨーク州、英国でも千人規模の臨時病床を既存の大規模施設転用も含めて新設し、隔離・治療にあたった。プレハブ病棟建設でも、五輪選手村や競技場の転用でも良い。「自宅療養=放置」ではなく、一刻も早く感染者を医療の下に置き、命を守り、感染拡大を止めなければならない。

(注)東京都の基準はECMO(人工肺)と人工呼吸器管理が必要な患者のみ重症者とする。国基準はこれにICU(集中治療室・重篤な患者が対象)とHCU(高度治療室・重篤ではないが専門的治療が必要な患者が対象)を加えている。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS