2021年09月10日 1689号

【未来への責任 (330) 閉館すべき産業遺産情報センター】

 「産業遺産情報センター」(以下センター)館長の加藤康子は安倍晋三前首相の幼馴染であり加藤官房長官の義姉でもある。安倍が加藤康子に「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは俺がやらせてあげる」(週刊新潮2015年5月20日号)と約束した通り、館長への道は15年世界遺産登録時に始まる。

 そもそもユネスコは教育・科学・文化の側面から戦争を抑止するためにつくられた国際機関である。明治産業革命遺産は西洋からの産業化の伝播が成功したことを示す例として登録されたが、そこには「目覚ましい産業化」の裏に朝鮮植民地化、中国大陸侵略、太平洋戦争を経て敗戦に至る「負の歴史」がある。

 加藤康子は雑誌『正論』に「韓国と反日日本人に洗脳されたユネスコ」、『週刊新潮』に「韓国・反日活動家の言うがまま『軍艦島』に『ユネスコ』が『強い遺憾』決議のおかしさ」という記事を公的施設長の肩書で寄稿している。そこで「ここに展示されている井上秀士さんも松本栄さんも戦時中、労働者として朝鮮半島出身者や中国人捕虜と一緒に働いていました」と書いているが、公開された映像を見る限り2人は「一緒に働いていた」とは証言していなし、元島民の思い出話を「一次史料」の証言だなどとごまかしている。

 また「世界遺産条約においては、歴史解釈における国家の主権がみとめられている」と書くが、世界遺産保存の原則を示す2008年のICOMOS(国際記念物遺跡会議)憲章には「解説は遺産の歴史的・文化的意義に貢献したすべてのグループを考慮に入れ」なければならないとしている。つまり産業化賛美だけではなく「負の歴史」=強制労働についても解説し「全体の歴史」を示せと言っているのである。

 産業遺産国民会議は2016年度から調査・研究委託費やセンター運営委託費などこれまで総額14億2千万円余を日本政府から得ている。その調査研究報告には強制労働否定の論文やインタビュー記録は収録されているが、強制動員被害者の記録はなく産業発展の過程での「犠牲者」の歴史もほとんど記載されていない。また明治産業革命遺産の保全管理の方針を決める「保全委員会」の会長・副会長は、安倍政権時代に内閣参与も務めた産業遺産国民会議の理事である加計学園グループ・千葉科学大学学長の木曽功と加藤康子が占めている。委員会の規約には「産業遺産国民会議の助言を受ける」とまで明記されている。

 産業遺産国民会議への委託を中止させ展示を改善させるまでセンターは閉館させるしかない。

 (強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)

 
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