2021年09月10日 1689号

【読書室/「八月ジャーナリズム」と戦後日本 戦争の記憶はどう作られてきたのか/米倉律著 花伝社 2000円(税込2200円)/加害を忘れさせる「受難の語り」】

 「八月ジャーナリズム」とは、毎年8月に戦争関連の特集記事や番組が集中的に掲載・放送される慣例のこと。「戦争を語るのは夏だけなのか」との皮肉を込めた名称だ。本書は戦後日本の戦争観や歴史認識を反映し、その形成にも大きな影響を及ぼしてきた「八月ジャーナリズム」を検証し、課題や今後の可能性を考察した労作である。

 「八月ジャーナリズム」は、戦後補償問題が焦点化した90年代の一時期を例外として、「受難の語り」が圧倒的優位を占めてきた。「戦争体験・記憶の継承」をコンセプトに掲げることが多くなった最近のテレビ番組もそうである。若者が継承すべき記憶として取り上げられるのは、日本人(兵士、民間人)の「被害」「犠牲」に関わるものばかり。日本のアジア侵略、様々な加害行為はリストから除外されている。

 歴代首相がこぞって語る「戦没者の尊い犠牲の上に今日の平和と経済的繁栄がある」という言説を、戦後日本の「建国神話」とするならば、その普及を担い、拡大再生産してきたのが「八月ジャーナリズム」であった。「建国神話」にそぐわない「戦争加害」を排除する傾向は、第二次安倍政権の発足以降、完全に定着した観がある。

 このような問題がありながらも、「八月ジャーナリズム」は日本の「反核・平和思想」の形成に寄与してきた。普段は忘れている戦争を思い出し、犠牲者を追悼し、平和への誓いを新たにする――「年中行事」にも意味があるのだ。

 著者の指摘の正しさは、オリンピック偏重の番組編成によって戦争特集が押し出されてしまった今年の夏が証明している。 (O) 
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