2021年09月10日 1689号

【パラリンピック観戦強行と校長処分/小池と維新の教育不当介入/背景に安倍以来の教育支配】

 新型コロナ感染症対策に便乗して、教育に対する政治の不当な介入が相次いでいる。東京都の「パラリンピック学校観戦プログラム」強行、大阪市の「オンライン授業」に異を唱えた学校長処分だ。その背景に安倍第一次内閣に始まり現在に至る教育破壊がある。

事実上の動員強行

 恐れていた事態が発生した。千葉市の市立中学校で、東京パラリンピックの「学校連携観戦」を引率した教諭など合わせて6人が新型コロナウイルスに感染したのである。これを受け、千葉県は「学校連携観戦」の中止を決めた。

 これほど危険な児童・生徒のパラ観戦が実施されたのは、東京都の小池百合子知事の熱心な旗振りによるところが大きい。「感染が広がっており不安」「中止すべき」という保護者・都民の声を押し切り、強行実施を主導した。

 反対意見は都の教育委員からも出ていた。東京都教委が8月18日に開いた臨時会では、教育委員5人のうち出席委員4人が「観戦プログラム」に反対し、「今は非常事態だ。リスクを背負って行くほうが教育としてもマイナスだ」「今、寄り添うべきは医療体制だ。テレビによる観戦でも教育の効果はある」と意見した。だが、事務局は「現場から強い希望がある」として強硬方針を変えなかった。

 翌日、小池百合子知事は「きのうの臨時の教育委員会で意見を伺ったが、そこで認めるうんぬんではない」と強弁。20日の定例会見でも「極めて教育的価値が高い」と正当化した。

 もっとも、当初の観戦希望は13万人だったが、中止する自治体が相次ぎ結局2万人に大幅減少。ある学校では中止決定の電話連絡に職員室が拍手に包まれたという。「現場の強い要望」など全くのねつ造だ。

意見しただけで処分

 大阪市教委は8月20日、大阪立木川南小学校の久保敬校長を文書訓告とした。

 久保校長は、松井一郎大阪市長が今年4月、新型コロナ感染症対策と称して「大阪市立学校の原則オンライン学習」を突然打ち出したことに実名で「提言書」を発表。「学校現場にオンライン学習態勢が全く整っておらず混乱している」などと指摘した。

 この指摘に対し松井市長は「決められた大方針に従えないなら辞めてもらわなあかん」などと非難していた。市教委による処分についても「決まったことに従えないなら組織から離れるべきだ」と処分を擁護した。

 処分は市長が決めたことに反発した″Z長に対する粛清だ。

違法な政治介入

 首長と教育委員会の役割を定めているのは「地方教育行政組織法」(地教行法)であり、戦前、戦争政策遂行に教育が利用されたことから、首長の権限は法律上制限されている。教育内容や教員の処分に関して首長の権限はない。

 小池知事が「パラ観戦」を「教育的価値が高い」と評し、自らの価値観に基づいて教育活動として実施することは許されていない。松井市長が「辞めてもらわなあかん」と公式に述べることも同様だ。

 だが、安倍「教育再生」での地教行法改悪で間接的に介入する道が着けられた。

 改悪後の現行地教行法は、自治体の教育行政の大枠である教育大綱を制定する権限を首長に与え政治介入の入口を作った。そして、教育委員長を廃止。教育委員会の指揮監督下で事務局を指揮監督することになっていた教育長を教育委員会の代表に格上げ。首長に教育長の任命権を与えた。

 このことで、首長は自ら任命した教育長の権限を通じ、いままで以上に教育に露骨に介入するようになった。地教行法は教育長の条件として「教育に識見を有する者」とするが、藤田裕司東京都教育長も山本晋次大阪市教育長も教育は全く畑違いの素人。首長の下で「行政改革」に邁進してきた小池・松井の分身だ。

 だから「パラ観戦」は教育長からの報告事項として済ませ、教育委員の反対意見は聞き置くという対応で強行された。大阪市の「オンライン授業」にしても、決めるのは教育委員会の権限であり、松井市長の暴走にまず教育長が抗議しなければならないにも関わらず、言われるままに従ったうえ、市長の怒りを忖度(そんたく)して校長処分に至った。

   *  *  *

 久保校長は「提言書」で「学校は、グローバル経済を支える人材という『商品』を作り出す工場と化している」と指摘。「今、価値の転換を図らねば、教育に未来はない」と訴えた。

 指摘のとおり、安倍・菅政権―小池・維新の教育政策は、教育をグローバル資本の利潤追求の道具へとおとしめる。政治の不当な介入を排し、子どもたちの成長に根差した教育をとり戻さねばならない。

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