2021年09月17日 1690号

【ゾンビは1年しか持たなかったが…/悪法を量産した菅政権/「安倍路線」絶つ政権交代を】

 菅義偉首相が退陣表明した。コロナ対策に失敗し、政権を投げ出したのだ。コロナでトンズラと言えば、ちょうど1年前に安倍晋三前首相が辞任している。自民党政権はその時に死んでいたのだ。なのに菅が後を継ぎ、数々の悪行をくり広げてきた。同じことをくり返させてはならない。

コロナ失政で退陣

 「新型コロナ感染拡大を防止するため、専任(ママ)したい」。菅首相は自民党総裁選への立候補を断念した理由をこう語った(9/3)。珍しくカンペなしの発言だったが、信じる者は誰もいない。要は、出ても勝てないから降りたのである。

 そもそも菅政権は「GoTo」事業の強行など、感染拡大防止よりも「経済を回す」ことに主眼を置いてきた。医療・検査体制の拡充や休業に不可欠な生活補償は置き去りにされた。その延長線上に今日の「ワクチン頼み」がある。

 政権浮揚の切り札として、菅がワクチンとともに期待したのが、東京五輪・パラリンピックだった。だから反対意見を押し切り強行したが、その独断専行ぶりに人びとの怒りは爆発した。

 内閣支持率は3割を切りり、東京都議選や横浜市長選挙では「惨敗」を喫した。そして「菅が総理では衆院選に負ける」という自民党内の動揺を抑えきれなくなり、パラリンピック期間中の「退陣表明」に追い込まれたのである。

 菅の不出馬表明を受け、株価は急伸した。「菅ではダメだ」という社会的合意の反映であろう。もっとも、菅退陣で何かが解決したかのように感じるのは禁物だ。自民党政権が続くのであれば、首相交代は看板の付け替えにすぎない。

 思い出してほしい。1年前の同じ頃、安倍晋三前首相が辞任している。表向きの理由は「持病の悪化」だが、本当はアベノマスク配布に示されるコロナ愚策に批判が集まり、政権を放り出したのである。

 ところが、安倍の後釜に座ったのは、官房長官として第二次安倍政権を支えてきた菅であった。アベ政治が行き詰まったのに、その継承を掲げる内閣が発足したのである。まさに死体なのに動き出し悪さをするゾンビのようであった。

デジタル監視を強行

 とっくに命運が尽きていたはずの安倍路線、すなわち新自由主義政策と戦争国家づくりが第3次安倍政権というべき菅政権の下でくり広げられた。ゾンビは1年しか持たなかったが、その間に人びとの生活に重大な影響を及ぼす数々の悪法が作られてしまった。

 まずは、デジタル監視関連法である。行政のデジタル化によって膨大な個人情報を一元管理すると同時に、民間企業が使えるようにするための法整備だ。ひらたく言えば、個人情報の無断収集及び無断利用の合法化にほかならない。

 同法の施行を受け、デジタル庁が9月1日に発足した。「誰一人取り残さないデジタル化」をキャッチフレーズに掲げての船出である。利益を生み出す餌として、グローバル資本に「誰一人取り残さず」差し出すということである。

 通常国会最終盤には、重要土地調査規制法の制定を強行した。軍事基地・原発周辺住民を犯罪者扱いして個人情報を調べ上げ、監視下に置くもので、戦争のための弾圧法規であることは明らかだ。改憲の手続きを定める国民投票法の改定案も成立させた。

 また、医療費本人負担を2割に引き上げる医療制度改悪関連法、「病床削減推進法」なども強行した。コロナ禍に直面してなお、新自由主義路線にもとづく医療切り捨てを断行するというのである。人命軽視の極みというほかない。

 日本学術会議の人事に介入し政権に批判的な学者を排除したのも、東京電力福島第一原発で発生する汚染水の海洋放出方針を決定したのも菅政権である。自民党政権が続けば、わずか1年でこれだけの悪事をしでかすということだ。

総裁選でメディア占拠

 すでにメディアの関心は、自民党総裁選に移っている。コップの中の争いにすぎない総裁選が、ニュースやワイドショー番組を占拠し、あたかも「日本のリーダー決定戦」であるかのように報道されている。

 「見え透いた手口じゃないか」とあなどるなかれ。あの菅でも「叩き上げの苦労人」や「パンケーキおじさん」宣伝の効果で、一時は7割を超える高支持率を得ていた。メディアへの大量露出にはそれだけの威力があるのである。

 総裁選で刷新ムードを演出した上で衆院選になだれ込む―−そうした自民党の悪だくみにごまかされてはならない。人びとを苦しめているのは、安倍・菅と続いた人命軽視政治だ。これを変えるには、戦争と新自由主義政策に終止符を打つ政権交代しかない。(M)

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