2021年09月24日 1691号

【介護施設で労働者復職を実現/闘いが起こした奇跡=^なかまユニオン 分会結成の力で】

 大阪府の介護施設で、配転強要から退職に追い込まれた一人の労働者の職場復帰を実現。三人で始めた労働組合活動が“奇跡的”とも言える成果を生み、今では職場の約半数が加入している。介護労働者の奮闘と展望をなかまユニオンの事例研究会から紹介する。

 箕面市にある創立16年目の介護老人保健施設(職員120人)で事件は起きた。

 施設の3部門(老健、デイケア、認知症グループホーム)のリーダーを担っていたAさんが、不当な配転辞令をきっかけに、4月に退職へと追い込まれたのだ。Aさんは、圧迫面談の繰り返しにより、パニック発作や不眠症発症に至るまで追い詰められた。その仕打ちを間近で見せられた事務職員Bさんも強度鬱(うつ)病を発症。

 リーダー会議で理事長・副理事長と話し合ったCさんは「辞令が出たら、職員は受けるか辞めるかだ。会社が舐められる」の法人側の言葉に強い怒りを覚えた。

 3人は、なかまユニオンに労働相談。本人同意尊重・不利益補償などの労働者の基本的な権利を守るためには職場に労働組合が必要だとの思いを共有して、組合に加入した。

職場復帰への思いが原点

 6月に入って、6つの職種18人で分会結成大会を開き、要求書と分会代表を決めた。なかまユニオンへの22人の加盟を法人に通告し、団体交渉の要求書を理事長に手渡した。参加した12人の組合員は、同時にそれぞれが理事長に思いを伝えた。

 要求内容は、▽配転ルールを改善する▽個別面談を行う際は、職員の意見を傾聴する態度を維持し圧迫面談をしない▽賃金実態を明らかにする▽組合活動を保障する―などだ。

 そして7月、第1回団体交渉の後、ついにAさんの職場復帰を勝ち取った。

 Aさんの思いは分会員の要求と重なる。▽圧迫面談で1人を責めるやり方を野放しにすると今後も被害が続く▽辞令に屈服すると続けてきた13年間の努力が無に帰する▽「絶対あきらめない!」と言ってくれた仲間と働き続けたい―。

 なかまユニオン井手窪啓一執行委員長の「会社と労働者は対等だ。労働者が自ら、会社が上、自分が下との構造を受け入れないことが肝心」との助言に、職場改善を求める職員が次々と結集。現在、施設のほぼ半数の職員を組織している。

一緒に働き続けたい

 闘いを振り返り、3人はこう語る。

 Aさんは「圧迫面談を受け、仕事に行けなくなった。みんなも同じ目に遭っていると聞いたので、職場を守るためにユニオンへ相談に。まだ嫌がらせもあるが、みんなが助けてくれるのでがんばっていきたい」

 Bさんは「あきらめる道とあきらめない道があった。どうせ辞めるにしても…と思った。当初の組合員が職場のリーダーばかりだったので、法人が危機感を持ったのでは。Aさんの配転は、撤回されない方がおかしいと思っていた。みんなのパワーの勝利ですね」

 分会代表のCさんは「個別につぶされるのを止めるためには、労働組合の団体交渉しかないと思った。これまで会社と対等に交渉する場がなかったが、法人のやり方がおかしいんだと伝えていきたい」

 井手窪委員長は「分会の闘いの一番大きなテーマは、Aさんの退職を撤回させよう、だった。『ダメだ』と言われたことに“あきらめない”思いで組合結成に至り、非常に大きな成果を上げた。いったん出した退職届を施設側に撤回させたことは、今の労働状況では奇跡的≠ニ言えるすごいこと。今後は、職場の中で組合の存在を強めていくこと。具体的な要求と宣伝活動が重要だ」と強調する。

拡大と労働条件改善へ

 現在の組合要求は、▽配転辞令内示は1か月前にする▽残業のカウントは15分未満カットを止め1分単位とする▽組合要求で実現した夜勤者仮眠場所の改善▽非常勤職員の待遇改善▽職員駐車場での破損事故責任の追及―などだ。

 同法人経営の施設には、8事業所に約700人の職員がいる。分会は他の事業所へのビラまき宣伝や交流に取り組み始めた。Cさんは「次の目標は、Aさんが働き続けられる職場に変えていくこと。そのために、一人一人の要求を法人にぶつけ、組合をさらに前進させていきたい」と今後の取り組みに展望を感じている。

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