2021年09月24日 1691号

【コラム見・聞・感/「衝撃」から1年 町長選控えた寿都(すっつ)は今】

 「核のごみ最終処分場 寿都町が調査応募検討」―昨年8月13日付け北海道新聞1面に衝撃的な見出しが踊って1年経った。

 応募表明した片岡春雄町長は2001年初当選。2005年以降4回の選挙はいずれも無投票で、選挙の洗礼を受けないまま5期20年、町政に君臨してきた。当選直後から「地方自治も大事だが金もうけも大事」と公言。町役場職員にも「ビジネスマン的役割」を期待してきた。「金儲けばっかり言うなと怒られる」と本人が自虐的に言うほど拝金主義的な政治手法は大阪維新を思わせる。反対派の声は聞かず「自分の肌感覚では賛成町民のほうが多い」と応募に突き進む強権的政治手法は深刻な反発、分断を生んだ。

 片岡町長の最大の「誤算」は、寿都町民はおとなしく自分の判断に従うと、町民を見くびったことだ。町の最大産業である水産加工業者を中心に「風評被害」などを恐れる町民が、町人口の3分の1に当たる約700筆の反対署名をわずか1か月で集めた。「子どもたちに核のゴミのない未来を!寿都の会」も結成される。応募の是非を問う住民投票の実施を求める署名も法定数が集まり、11月、条例案が町議会(定数10)に付される。採決結果は賛否4対4の同数で町長派の議長が否決。民主主義を求める町民多数の声を、わずか5人の町議が葬り去ったのだ。

 その後、町長発言を逆手に取るように「脱!肌感覚リコールの会」が新たに結成。核ごみ受入拒否の請願や意見書採択、受入拒否条例制定の動きは周辺自治体にドミノのように広がった。21年3月には、道全体の反原発運動団体が一堂に会し「核ゴミ問題を考える北海道会議」が発足した。

 寿都の闘いが巨大な前進を生み出す中で、元町役場総務課長として片岡町政を支えた越前谷由樹さんが「町長の独善的なやり方に疑問を感じた」と核ごみ受け入れ反対を表明。町議を辞して出馬を決めた。

 歴史をさかのぼること1世紀。寿都に建設強行された銀鉱山の精錬所が、住民の粘り強い反対運動で閉鎖されたことを最近知った。百年前の歴史への想像力さえもない町長に10万年後の核ごみの責任が取れるとは思わない。

 注目の寿都町長選は10月21日告示、26日(火)投票。全国的にも珍しい平日投票で「審判」が下る。(水樹平和)
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