2021年10月01日 1692号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/番外編14/汚れた電通マネーと「風評対策」/ゆるキャラは復興庁の指示だった】

 復興庁が今年春「風評対策」のために公開しながら、全国からの批判を受け即撤回に追い込まれた「トリチウムゆるキャラ」。その制作を指示していたのは復興庁だった。


国の直接指示で

 本紙が行ったのは令和2年度「放射線等に関する情報発信事業」発注関係の情報開示請求だ。復興庁は、黒塗りを含む32ページの資料を開示した。

 「企画競争理由書」によれば、事業発注目的は「放射線に関する基本的な情報や福島の現状等について広く国民一般(特に、乳幼児・児童生徒の保護者及び妊産婦。)に伝え」ること。放射能への不安を持ちやすい層を明確にターゲットに打ち出している。

 特に重点を置く事項として「放射線以外のリスクを示しつつ、放射線リスクを相対化して発信する」ことを記載している点には注目すべきだ。事故直後、御用学者を大動員し「福島より国際線乗務員の被曝量の方が多い」「放射能よりたばこの方が身体に悪い」などのキャンペーンが繰り広げられた。放射能のリスク自体は否定できず、他よりマシという宣伝しかできないことは原発最大の弱点だ。そうした宣伝が国の直接指示によることを公文書で確認した意義は大きい。

 「マンガ、アニメーション、動画など親しみやすいコンテンツを作成する」との記載もある。ゆるキャラも復興庁の指示だった。


政府答弁(数百万円)との差額は?(復興庁資料から)

選定は電通ありき

 予定価格とその積算根拠はすべて黒塗りにされているが、企画競争理由書には契約予定金額を2億5千万円程度と記載している。通常、これほどの金額は一般競争入札としなければならないが、復興庁は入札になじまない案件を随意契約にできる会計法の特例条項を適用したと説明する。

 事業参加を希望する業者から事業目的を実現するための企画提案書を提出させ、発注者(復興庁)側が指名した委員がその内容を審査して業者選定するのが企画競争方式だ。開示された企画提案書審査基準及び採点表によれば、全15項目120点満点のうち「放射線に関する基本的な情報等」「福島の現状に関する情報」「インフルエンサー(ネット上で影響力を持つ人物)等を通じた情報」発信の実現可能性を問う3項目に各20点、計60点と全体の半分が配点されている。事実上この3項目を制する業者が「落札」となるが、実現可能性を審査基準にする限り、過去、類似事業に参加実績を持つ業者が有利なのは明らかだ。半永久的に電通だけに受注を保障する仕組みといえる。


過去の実績重視の審査基準

あの御用学者にも?

 国・電通一体となった赤裸々な「洗脳」計画を隠したいのか、電通が復興庁に提出した企画提案書は9割がた黒塗りとなっている。そのわずかな開示部分にやはり開沼博の名前がある。福島県民に寄り添うふりをしながら、放射能に不安を抱く市民や避難者を一方的に「風評加害」者と決めつけ攻撃する最悪の扇動者だ。その「功績」が認められ、立命館大准教授から御用学者の殿堂・東大へ華麗なる「栄転」を遂げた。

 「3・11から10年目の福島の課題」と題し、電通が開沼准教授に講演依頼したことが黒塗りの隙間から覗く。報酬支払の明示はないが、さすがに無料はあり得ないだろう。汚い電通マネーの一部が「新進気鋭の御用学者」に流れている可能性を匂わせる。

 今年4月14日の参院特別委。山添拓議員(共産)の質問に対し、角野然生・復興庁統括官はゆるキャラ作成費を数百万円程度と答弁した。2億5千万円との差額は何に使われたのか。開沼准教授への報酬があるとすればいくらか。開示文書は新たな疑問も生んだ。

 現在までに開示された文書は、企画提案業者が電通以外にいた可能性を示すものとなっている。今後も情報開示請求を続け、ジャーナリズムとして読者の知る権利に応えたい。

     (水樹平和)


9割黒塗りの資料でも開沼博の名前が明らかに
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