2021年11月05日 1697号

【未来への責任(334) 佐渡鉱山と朝鮮人強制労働】

 10月23日、強制動員真相究明ネットワークが主催する「強制動員講座」がオンラインで開催された。テーマは「佐渡鉱山と朝鮮人労働者+新史料」。講師は長年産業史の観点から強制動員問題を研究されてきた広瀬貞三さんが務めた。日本維新の会の馬場伸幸議員の国会質問主意書を受けて「従軍慰安婦」と「強制連行」の文言が教科書の記述から消されるなど政府による歴史修正の動きが顕著になっている中で、強制動員問題を正しく理解してもらうための連続企画の第1回目である。

 今、新潟県や佐渡市が中心となって「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」の世界遺産登録を目指している。しかし、明治産業革命遺産と同じく佐渡鉱山も朝鮮人強制連行の現場であった。明治産業革命遺産では、戦争中の朝鮮人・中国人・連合軍捕虜の強制労働を「記憶」するための施設であったはずの産業遺産情報センターにおいて、被害者証言などが一切展示されていなかったためユネスコが今年7月再度勧告を出すという異例の事態となっている。

 ユネスコは、2001年「文化的多様性に関する世界宣言」で「国際平和と安全保障実現のための最善策は、相互信頼と理解に基づいた文化的多様性、寛容、対話、協力の尊重」であると宣言した。そして2008年「文化遺産の解説と展示に関するICOMOS憲章」では「解説は、遺跡の歴史的・文化的意義に貢献したすべてのグループを考慮に入れるべき」「解説プログラムの策定にあたっては異文化的意義を考慮すべき」とした。

 つまり、植民地支配や戦争などの形での異文化間「交流」であったとしても、その遺産の歴史の一部を切り取るのではなく、明治産業革命遺産では当時行われた「強制労働」も含めた「全体の歴史」を「解説」することを求めたのである。戦争のない社会を展望し未来に承継すべき世界遺産はその「負の歴史」の記載が不可欠なのである。佐渡鉱山には金山としての歴史的価値だけでなく三菱財閥が経営していた九州・北海道の炭鉱と同様、強制労働の歴史が刻まれている。その歴史が語られなければ世界遺産として普遍的価値を欠くということである。

 広瀬さんの報告は、新たに見つかった三菱鉱業の技師平井栄一氏が記した文書の分析から佐渡鉱山に2千人の朝鮮人が動員されたことを明らかにした。そして三菱の鉱山経営を誰がどのように担っていたのかを徹底的な文献調査を通じて実証し全体像を明らかにしようとするものであった。軍艦島の元島民の思い出話を「一次史料」などとうそぶくのではなく、このような実証的な研究が歴史の真実を明らかにするのである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

 
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