2021年11月19日 1699号

【自民総裁岸田と維新代表松井が改憲発言/「来夏参院選で国民投票」と維新/狙いは緊急事態条項導入か】

 岸田文雄自民党総裁は、衆院選直後の記者会見(11/1)で「憲法改正」に言及した。これに呼応するかのように、日本維新の会松井一郎代表も「改憲促進」とあおった。自民・維新の「是々非々」コンビは、まず「改憲」で一体感をあらわにした。彼らはどんな改憲への道筋を描いているのか。

改憲賛成議員は77%

 「最後に、党是である憲法改正にむけ精力的に取り組んでいく。与野党の枠を超え、国会で3分の2の以上の賛成が得られるよう議論を深める」。岸田が記者会見でこう表明した。

 「3分の2」は得られるのか。今回、自公が得た議席は293。衆院定数465の3分の2(310議席)には届かない。ところが、当選議員の77%が改憲賛成なのだという(11/2毎日)。「改憲」を公約に掲げる日本維新の会議員では98%が賛成。自民党と同じ割合だ。

 日本維新の会松井一郎代表は大阪市長としての定例記者会見の後、「憲法審査会の採決までのスケジュールを決める。岸田さんが本気ならそれをやることだ」と述べ、「来夏の参議院選挙時にあわせて国民投票を実施」とまで踏み込んだ。

 参議院では現在、自公に維新を加えても3分の2(164議席)に10議席足りない。それを前提とした松井発言は「(総裁の)任期中にめどをつける」(9/17)と口にした岸田に先送りさせないよう圧力をかける意味が大きい。


自民に同調 維新改憲案

 自民と維新が「改憲」で一致しても、掲げる項目は同じではないのだが、実は驚くほど近づいている。

 維新の改憲案を見よう。衆院選にむけ公表した政策提言「維新八策2021」。「憲法改正に正面から挑み、時代に適した『今の憲法』へ」と掲げ、真っ先に「教育無償化」をあげる。「経済的理由により教育を受ける機会を奪われないこと」を明文化するという。教育無償化は自民党改憲草案にもある。2017年に安倍総裁(当時)が維新を取り込むために加えたものだ。

 現憲法にはすでに「ひとしく教育を受ける権利」(26条)が明記されている。あえて「改憲」する必要はない。無償にする法律をつくればよいだけのこと。「改憲」のハードルを下げるための目くらましだ。

 維新改憲案は他に道州制や憲法裁判所の設置をあげるが、自民との連携を意識した項目が「その他」として用意されている。

 自民改憲草案の肝である9条については「平和主義・戦争放棄を堅持した上で、正面から改正議論を行う」としている。集団的自衛権行使を可能とする戦争法制定を強行したことにより、戦争法は憲法違反の法律として存在することになった。「合憲化」するために憲法の方を変える必要性があるということだ。

 もう一つ、自民改憲草案と呼応するのが「緊急事態条項」だ。維新は「新型コロナの感染対策上、必要性が増している」として、「積極的な議論と検討を行う」と書いた。

 改憲項目で自民が宣伝する「4つの変えたいこと」のうち、参院合区解消以外の3項目について、維新は一致している。9条改憲には市民の反発は大きい。「とりあえず改憲」戦術をとる自民党はより「合意」が得やすい項目としてまず、緊急事態条項創設を探っているのだ。


コロナ禍で下がるハードル

 実際、自民からは維新と同じ筋書きの観測気球があがっている。下村博文政調会長(当時)が改憲派の集会(5/3)で「今回のコロナを、ピンチをチャンスとして捉えるべきだ」と語れば、加藤勝信官房長官(当時)も「新型コロナウイルスによる未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態に対する関心が高まっている。議論を提起し進める絶好の契機だ」(6/11)と発言。

 いうまでもなく、新型インフルエンザ等特措法に定める緊急事態措置と自民党が目指す憲法上の緊急事態条項とは異なるものだ。自民改憲草案がうたう緊急事態条項とは、内閣が予算策定・立法権を手にし、独裁化することを意味する。

 自民はコロナ対策としての「ロックダウン」措置と憲法を停止する緊急事態条項を区別することなく、コロナ危機を利用して「改憲」理由をつくり出そうとしている。9月の世論調査(時事通信)を見れば、ロックダウンを可能にする法整備について56・5%が「必要」と答えている。感染拡大が続く中での調査結果とはいえ、緊急事態条項創設のハードルは9条改憲より低くなっている。衆院選当選者のアンケートでも、わずかだが9条改憲より緊急事態条項賛成議員は多い。維新議員も過半が賛成だ。

 自民と維新は改憲論議の中でますます一体感を示すことだろう。

資本の期待は新自由主義の保証

 一方、岸田改憲の本気度を疑う発言もある。例えば、憲法学者木村草太は「改憲サークルへのリップサービス」(10/20毎日)と評価を下す。確かに、安倍政権が国防軍や集団的自衛権を憲法に書き込もうとした意気込みに比べ、改憲にかける岸田の意欲がどこにあるのかはまだ見えない。

 岸田の当面の最優先課題は「新しい資本主義」を定着させることだ。安倍・菅の亜流扱いから脱するには、アベノミクスにかわるキャッチコピーが必要と考えている。「新しい資本主義」は「(自らの)新成長戦略と同じだ」と日本経団連から支持を得た。党内の権力基盤に不安のある岸田にとって、資本の期待に応えることが死活の問題と言える。

 日本経団連の改憲構想はどうか。07年「希望の国、日本」(御手洗(みたらい)ビジョン)にある9条2項(戦力不保持)と96条(改憲要件)の見直しである。つまり、海外権益を守る自衛隊の海外派兵を可能とすることであり、今後も必要に応じて改憲できる要件を緩和することだった。すでに国会議員過半数での発議とすることなど自民党の改憲草案が忠実に盛り込んでいる。

 では「新成長戦略」を掲げ、新たな市場を探す資本はどんな憲法がほしいのか。「自由な競争秩序を守るための規制は許されるが、競争制限・参入制限的な規制は原則として認められないといった趣旨を明記する」―独占禁止法などの著書がある飯田泰雄鹿児島大名誉教授の分析だ。要は、新自由主義の原則を憲法に書き込めということだ。

 維新は規制緩和など新自由主義政策を正面から掲げる。そんな維新が「改憲」の旗を振っている。岸田は総裁選を経る中で新自由主義政策への批判を封印した。自民と維新が一体化した「改憲」は資本の要求に、よりストレートに応えるものとなることだろう。

 自民・維新が描く憲法は、政権を縛るものではなく、市民の権利を制限するものになることは間違いない。最大限の警戒心をもって、市民と立憲野党の共闘を強化しなければならない。
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