2021年11月19日 1699号

【「野党共闘に展望なし」というデマ/本当は怖がっている自公政権/不十分性にこそ目を向けよ】

 衆議院議員選挙の結果を受け、「野党共闘は失敗」論が各方面から噴出している。「共産党と組んだから立憲民主党は負けた」「批判ばかりしていた者が軒並み落選した」等々。野党共闘の自壊をもくろんだ「悪魔のささやき」にのせられてはならない。

脅威だからつぶす

 今回の総選挙で立憲民主党は公示前から議席数を大きく減らした。共産党も2議席を失い、野党共闘を主導した両党には厳しい結果となった。メディアは「野党共闘は不発」と一斉に書き立て、「政策軽視の共闘が惨敗招いた」(11/3読売社説)と断じた。

 世論の反応はどうか。共同通信の世論調査(11月1〜2日実施)では、野党共闘を「見直した方がいい」61・5%が「続けた方がいい」32・2%を圧倒した。朝日新聞の調査(11月6〜7日実施)では、来年の参院選で野党候補の一本化を「進めるべきだ」は27%にとどまり、「そうは思わない」が51%だった。無党派層で「進めるべきだ」は21%と低かった。

 このように、野党共闘は「失敗」との評価が定着しつつあるが、本当はどうなのか。今回の小選挙区で自民党の勝利は187。前回の218から大きく後退した。一方、立憲は小選挙区で57勝。勝った選挙区の多くは野党候補者の一本化が行われたところだ。

 しかも自民の小選挙区当選者の約2割にあたる34人は、次点候補との得票率の差が5ポイント未満という辛勝であった。そのうち33人は野党統一候補との争いである。さすがの読売新聞もこの事実は無視できず、「自民単独で過半数となる233議席を確保できなかった可能性もあった」(11/4)と指摘した。

 自民党の平将明議員(東京4区)はBS−TBSの番組(11月4日放送『報道1930』)でこう述べている。「立憲と共産党の共闘の見直しみたいな感じがあるみたいですけど、我々からしてみると、すごい脅威でしたね」

 これこそが自公政権及び改憲勢力の本音といえよう。連中にとって野党共闘は脅威なのだ。だから、この機会に叩きつぶそうとしているのである。

「文句だけ」と揶揄

 野党共闘に期待していた人の多くは今、思わぬ結果にショックを受けている。自公政権・改憲勢力はそこに付け込み、メディアを巻き込んだ印象操作で「野党共闘に展望なし」とあきらめさせようとしている。

 たとえば、「維新躍進」の立役者である吉村洋文・大阪府知事(日本維新の会副代表)は、立憲や共産の国会議員を念頭にこう言った。「国会の場でスキャンダル追及に明け暮れたり、官僚を吊るし上げたりとか、とにかく揚げ足をとっていくことについては多くの国民の皆さんがへきえきしているところがあると思う」(11/1の記者会見)。

 同日、産経新聞は「立民『論客』相次ぎ落選/『批判だけは支持されず』」という見出しのネットニュースを配信した。辻元清美議員ら政権批判の中心にいた人物は皆落選したとあげつらう記事である。

 御用評論家の面々もフル稼働中だ。政治評論家の田崎史郎は立憲の議席減について「共産党と組んですごい左の方へ触れてしまったのが失敗の原因だと思う」と発言。「今の左寄り路線では再生の目はない」と断じた(11/1フジテレビ系『めざまし8』)。

 こうして「野党は反対ばかりだから駄目なんだ」という空気が形成されていった。政治の話はタブーのはずのアイドルが「野党の『野』って、野次の『野』じゃないんですか」とテレビで語るほど、「世間の常識」と化している。

すり寄りは消滅の道

 こうしたムードに負けて政権批判を控えたりすれば、どうなるか。野党としての存在意義まで失い、埋没から消滅への道をたどることは目に見えている。

 「日本若者協議会」という団体の代表理事を務める室橋祐貴は、自民党が中道左派にまでウィングを広げていることに習い、立憲民主党も中道右派的な政策を取り入れるべきだと主張する(11/4ヤフーニュース)。その例は何と「解雇規制の緩和」であった。

 「何でも反対ではなく現実的な路線をとれ」あるいは「批判をするなら対案を出せ」とは、結局こういうことである。「新自由主義政策の枠内で、自民党を始めとする他政党と競い合え」という意味なのだ。

 批判したり反対することへの忌避感が若い世代を中心に浸透しているのは事実だろう。しかし、おかしいことは「おかしい」と声を上げなければ何も始まらない。「反対、批判はうっとうしい」は、それを抑圧するために支配層が植え付けた固定観念なのだ。

真の共闘を市民と

 自公政権が脅威と感じている野党共闘を自ら解体するなんて馬鹿げている。もちろん、今のあり方のままでいいわけない。

 野党共闘の効果が限定的に終わった最大の原因は、その不十分性にある。野党4党が政策協定を結んだのは大きな前進だが、選挙前の急ごしらえ的な印象をぬぐえなかった。安倍・菅政権との決別は唱えても、連中が進めてきた戦争と新自由主義路線に替わる新たな社会像を明確に示し、有権者の期待を集めることができなかった。

 今回の選挙でも棄権率が4割を超えた(約44%)。新自由主義政策に痛めつけられながらも、「投票したところで何も変わらない」「自分と政治は関係ない」と思い込み、投票を放棄した人が大勢いる。野党共闘勢力が真摯に耳を傾けねばならないのは、こうした層の声なのだ。

 彼らの意見を吸い上げ、支持を得ていくためには、市民運動との日常的な連携が欠かせない。下からの共闘を軽視した談合からは何も生まれない。  (M)



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