2021年11月19日 1699号

【東電刑事裁判控訴審スタート 仲間の遺影を掲げ「事故の現場検証を」】

 福島原発事故の責任を問う東京電力刑事裁判の控訴審初弁論が11月2日、東京高裁で開かれた。

 高裁前で支援者150人は、福島原発告訴団を支えてきた2人の仲間の遺影を掲げた。イラストや歌で励まし続けた人見やよいさん、飯舘村(いいたてむら)で闘い続けた長谷川健一さんはガンで亡くなった。告訴団代表の武藤類子さんは「人生を狂わせた多くの被害者のためにこの裁判は負けられない。地裁不当判決を覆し、この社会を変えるために力を貸してください」と訴えた。

 河合弘之弁護士は「東電株主代表訴訟では裁判官が現場検証。現地は今も5分間で死亡する高線量の場所がある。現場検証せずにどうして裁けるだろう」、海渡雄一弁護士も現地視察結果を報告し「地裁では検証は却下。現場を見れば自信をもって判決文を書けるはずだ」と現場検証の重要性を語る。高裁に「裁判官は福島原発事故の現場を見てください」の声が上がる。

 隣人とリボンで結ぶディスタンスヒューマンチェーンが高裁を包囲する。東電の刑事裁判を追及する会は、有罪を求める2枚の寄せ書きを持って参加した。小林和博さんは「原発を動かす上で東電幹部には高度の注意義務が課されている。その責任を取ってもらわなければならない」と語る。

 避難者からは「今でも5万人を超える人が帰れないでいる。こんな理不尽なことは許されない」(かながわ訴訟原告・村田弘さん)「原発避難者の住宅入居に条件をつけて排除すること自体が間違い。追い出しさえ進めている」(東京訴訟原告・熊本美彌子さん)「10年経っても誰も責任を問われないのはおかしい」(子ども脱被ばく裁判原告・今野寿美雄さん)などアピールが続いた。

地裁判決の誤りを指摘 即日結審を許さず

 午後1時半から始まった法廷では、検察官役の指定弁護士が控訴趣意書を約30分にわたって読み上げた。

 指定弁護士は、原判決(2019年9月の東京地裁判決)が(1)政府機関である地震本部の長期評価の信頼性を否定したこと(2)原子炉の安全性に関する社会通念への理解が誤っていること(3)経営陣の責任を福島第1原発の運転上の責任だけに限定して狭く捉えすぎており、事故の予見可能性に対する責任を無視したこと(4)現場検証の要求に応じなかったこと―という「4つの誤り」を指摘した。

 弁護側(東電旧経営陣3被告の弁護人)の反論は約10分と短かった。「東日本大震災は、指定弁護士が証拠提出した明治三陸沖地震などとは比較にならない巨大地震であり、その対策をしようとすれば、はるかに長期間を要する大がかりなものとなる」として結果回避は不可能だったと弁解。「過失犯の成立には予見可能性、結果回避可能性、結果回避義務違反の3要件が揃うことが必要であり、結果回避が不可能だった今回の事故では過失犯の成立要件を満たしていない」と形式論で控訴棄却を求めた。

 一審で指定弁護士は「建物の水密化、防潮堤設置、非常用ディーゼル発電装置の高台移動など、運転停止までに取り得る結果回避措置を尽くしても運転停止以外に事故回避措置がない場合の最終手段」として運転停止を主張していた。これに対し、東京地裁判決は「原発事故を回避するための唯一の手段は運転停止」であり、それ以外の安全対策は取り得ないと一方的に決めつける内容だった。弁護側は今回、この判決を根拠に「指定弁護士側も運転停止を主張していたのだから、原判決に誤りはない」と主張した。

 指定弁護士側が追加提出した証拠の扱い、被害者が求める現場検証の実施を次回までに合議で決めること、次回公判を来年2月9日14時開廷とすることを細田啓介裁判長が決定。被害者側が恐れていた即日結審を許さなかったのは、大事故の責任をとらない国・東電への怒りと闘いの力だ。

 
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