2021年11月26日 1700号

【やっぱりひどい「新しい資本主義実現会議」提言/なんの反省もなく新自由主義を継続/格差は問わず新市場創出へ】

 岸田政権のキャッチコピーの一つ「新しい資本主義」。その実現会議が11月8日、わずか2週間で緊急提言をまとめた。安倍政権の影をぬぐいさろうと、看板のかけかえに忙しい岸田だが、中身は資本の求める「成長戦略」そのもの。格差を拡大した新自由主義政策を反省することなく、相変わらず「成長」を掲げている。

デジタルが成長戦略

 「新しい資本主義実現本部」(本部長内閣総理大臣)が内閣に設置された10月15日、その本部の下に有識者を含む「実現会議」(議長内閣総理大臣)が同時に発足した。初会合は衆院選最中の10月26日。11月8日の第2回会議で緊急提言案が採択された。経済対策や予算編成に反映させるためとはいえ、素早い動きだ。

 緊急提言は「新しい資本主義」を「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を実現するものとして成長戦略と分配戦略を書き出しているが、成長戦略はこれまで資本が要求してきたことを総ざらいしたもので、時間をかける必要はなかったということだ。

 「成長戦略」に真っ先に上げるのは「科学技術立国」。10兆円規模の大学ファンドなど産学連携した技術開発に予算を投入する。デジタルからグリーン(環境関連)など分野は広い。行政の持つビッグデータの開放を意味するDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の推進や小型原子炉、高速炉開発さえ掲げている。

 これに続いて、「スタートアップ企業支援」「デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」の分類のもとに、30項目以上の政策が列記されている。どの項目にも顔を出すのが、デジタル化の促進だ。

 資本が思い描く「新しい資本主義」は情報が価値を生む新たな市場創出なのだ。公的なデジタル基盤整備により資本の私的利潤が拡大することを期待している。

実行できない「分配」

 「分配戦略」の方はどうか。「民間部門の分配強化支援」と「公的部門における分配機能の強化」と書き分けるが、「成長戦略」に比べ具体的項目は半分。策がないのは歴然としている。

 わずかな分配の事例として岸田が早くから口にしていた看護師や介護士・保育士の賃金引き上げ。具体化のために全世代型社会保障構築会議の下に公的価格評価検討委員会を設置し、第1回を11月11日開催した。だが、「賃金改善を直接の目的とする仕組みはない」(委員会資料「公的価格の制度について」)とするように、政府の決定で賃上げが実施されるわけではない。政府は診療報酬などの算定基準を引き上げ、経営者に財源の一部を渡す。それが労働者の賃上げにつながるかどうかは別の問題だ。

 医療や介護・保育などの保障は本来、行政が責任を負うべきものだ。新自由主義政策は公的責任を放棄し、利潤を求める資本に投資市場として開放してきた。資本は人件費をいかに低く抑えるかを競った。「公的価格」を問題にするのなら、職員の待遇は当然として、求められる水準を維持できる運営を保証できるよう見直す必要がある。

 低賃金問題は医療や介護・保育に限られた問題ではない。全産業の平均月額賃金に比べ5万円〜6万円も低い保育・介護職員と並んでいるのが宿泊業、飲食サービス業などの「対人サービス産業」の労働者だ。非正規女性労働者の比率が高く、コロナ禍で仕事を奪われてさえいる。

 労働者を使い捨てにする新自由主義政策に対する反省がないまま「所得倍増」といってもむなしいだけだ。岸田は「成長の果実を一人ひとりの所得、給与という形で分配」と言う。それをしてこなかったのが新自由主義政策ではなかったのか。

富の偏在 手つけず

 「新しい資本主義」の虚構を暴くには、「いま分配すべき富はないのか」と問えばよい。大企業の内部留保や富裕層の蓄財は再配分の対象ではないのか。



 内部留保は「危機の備え」といいながらコロナ危機の中でも増え続け、労働者の賃金は低下を続けた。生産の果実を労働者がどれだけ受け取れるのかを示す労働分配率は低下し続けている。

 特に1990年代を境目に、資本の取り分は増えながら人件費はほぼ横ばいか減少。「成長」したところで、労働者に「分配」されることはなかった。

 86年の国鉄分割民営化法と労働者派遣法の制定。以降、労働組合解体と新自由主義政策が進んでいった。徐々に派遣業務が拡大され、労働者の賃金はまったく上がらなくなっていったのだ。

 岸田は、総裁選当初に掲げていた「金融所得(株式譲渡益・配当)課税強化」を降ろしてしまった。実現会議では、実質税率が低下する「1億円の壁」に触れることはなかった。大企業・富裕層がため込んだ富を分配する手段を取らず、「分配」は「成長」の先に送られた。結局は実行されることはない。

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ここにも竹中平蔵

 岸田政権の看板政策をアピールするための会議設置が続いている。安倍・菅時代の会議と重なるものも多い。「新しい資本主義実現会議」は経済政策の司令塔と位置づけてきた「経済財政諮問会議」と並存する。「デジタル田園都市国家構想実現会議」は「デジタル社会推進会議」、「デジタル臨時行政調査会」は「規制改革推進会議」「行政改革推進会議」と重なる。「有識者」と言われる面々はこれまで同様、政府原案を追認する利益代表者ばかりだ。

 「新しい資本主義実現会議」には関係閣僚の他に財界3団体(日本経団連、経済同友会、商工会議所)やIT関連企業などの代表が名を連ねる。「デジタル田園都市国家構想実現会議」で目を引くのは、慶応大学名誉教授の肩書で加わった竹中平蔵だ。人材派遣会社パソナ会長であることは周知の事実。今パソナは兵庫県淡路島に「本社の一部移転、地方創生」をビジネスモデルにしている。竹中は「時代がパソナグループに追いついてきた」(11/10神戸新聞)と豪語する。「デジタル田園都市国家構想」の具体化は、まさにパソナの利益に直結している。

 「新しい資本主義」と看板をかけかえたが、これまで通りの新自由主義政策を続けていくということだ。

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