2021年11月26日 1700号

【維新が大阪で強い理由/既存政党への不満を吸収/維新現象はどこでも起こる】

 先の衆院選で、公示前勢力(11議席)を大きく上回る41議席を獲得した日本維新の会。とりわけ本拠地の大阪では、公認候補を擁立した府内の小選挙区すべてで当選を果たすなど、圧倒的な強さを見せつけた。大阪の維新はなぜ、一人勝ち状態を続けられるのか。

「民度が低い」のか

 維新は今回、大阪府内19選挙区のうち公明党の公認候補がいる4選挙区以外の15選挙区に候補者を立て、いずれも勝利した。比例近畿ブロックでも約318万票を集め、10議席を獲得。大阪での得票率は42.5%と他党を圧倒した。

 一方、自民党は府内選挙区で全敗、比例復活もできなかった。野党共闘勢力も誰ひとり勝てなかった。自民府連幹部は「10年がかりで維新王国ができあがってしまった」と嘆く。たしかに、維新は大阪では無敵の強さを誇っている。今回の総選挙に限った「旋風」ではないのだ。

 衆院選の1か月前、府内の池田市で市長選挙があった。維新公認の前市長が市役所に私物の家庭用サウナを持ち込む問題などで辞任したことにともなう選挙だった。結果は、維新が擁立した候補の圧勝だった。彼女は不祥事で辞めた前市長が市議だった頃に秘書をしていた人物である。それでも「維新」の看板で闘い、当選を果たした。

 こうした事態を目の当たりにすると「大阪は異常なのでは」と考えてしまいがちだ。実際、衆院選の結果を受け、ネット上では「維新を勝たせ続ける大阪人」をあざける投稿が相次いでいる。「デマゴギーに洗脳されている」はまだましなほうで、「大阪は民度が低い」といった偏見に満ちた言葉が飛び交っている。

 しかし、「大阪の有権者は愚かで、政治的な判断能力がない」という主張に与することはできない。本当に「維新の言うことは皆OK」なら、維新の看板政策だった「大阪都構想」を住民投票で2度も否決したりはしないからだ。

 いわゆる「大阪都構想」をめぐる住民投票は、2015年と2020年に行われ、いずれも反対票が賛成票を僅差で上回った。昨年の住民投票は公明党も賛成に回ったが、反対多数は変わらなかった。維新の顔である吉村洋文府知事の支持率は当時7割を超えていたが、大阪市民は「それとこれとは別」として判断を示したといえる。

大阪代表のイメージ

 ではなぜ通常の選挙では維新が勝ち続けるのか。関西学院大学の善教将大(ぜんきょうよしひろ)教授は次のような仮説を提示している。維新は自身の政党ラベルに「大阪」の代表者という価値を付与することに成功した。だから維新であることをアピールすれば、知名度がない新人候補でも勝てるのだ、と。

 大阪経済の地盤沈下が叫ばれて久しい。人びとの貧困化も著しく、大阪府の生活保護率は全国1位。非正規雇用労働者の占める割合も高い。彼らは社会から置き去りにされた(されつつある)存在だが、自分たちの声を代表・代弁する存在を既存の政党や政治家の中に見出せないでいた。

 そうした状況下で登場したのが「既得権益の打破」を掲げる維新である。「改革」だけなら誰でも言うが、維新は大阪の利益代表者であることをアピールし、他党との違いを強調した。「全国に通用するリーダー(創業者の橋下徹や現在の吉村知事のこと)がいて、何のしがらみもない維新だけが、中央の言いなりにならず大阪の利益を実現できる」というように。

 この戦略が功を奏し、維新は「大阪代表」というブランドイメージを確立した。都構想の場合、大阪市の解体にメリットを見出せなかった有権者が多かったから否決されたのであり、維新そのものが否定されたわけではない。そこを勘違いしてはならない。

自民批判をごっそり

 「大阪で医療崩壊が起きたのに、吉村知事のコロナ対策が評価されているのは解せない」。そのように感じている人は多い。結論から言うと、大阪の人びとはコロナ禍・医療崩壊の責任が維新政治にあるとは見ていない。「悪いのは政府・自民党」なのである。

 前述の善教教授が大阪府の有権者を対象にしたオンライン調査(今年8月)で、「新型コロナ感染者の急増による医療崩壊の責任は誰にあると思うのか」と聞いたところ(複数回答)、最も多かった回答は「内閣・首相官邸」52・15%だった。以下、「菅義偉首相」51・58%、「与党の政治家」47・85%と続く。一方、「都道府県知事」は12・03%、「市区町村長」は7・78%であった。

 たしかに、失政続きでコロナ地獄を招いた政府・自民党に対する大阪の人びとの怒りはすさまじかった。維新は「自民党には絶対に投票しない」という人びとの受け皿となり、ごっそり票を持っていったのだ。

 実際のところ、医療崩壊の背景には維新流の新自由主義政策がある。大幅な人員削減などで医療機関や保健所の機能が低下していたのだ。しかし有権者はそう理解しなかった。これについては、長期的視点からの検証報道をせず、「吉村賛美」に終始した在阪テレビ局の影響が大きい。

大阪だけではない

 今回、維新が比例区で得た得票数は805万票(得票率14・0%)。近畿以外の比例区でも15議席を獲得した。大阪ほどではないにせよ、全国でも自民批判票の受け皿となったのである。もはや「大阪の特殊事情でしょ」でやり過ごしていい問題ではない。

 社会から置き去りにされ、見捨てられつつあると感じる人びとが、自分たちの訴えを無視する既存の政治に対する不満と憤りから、本来は相容れないはずの権威的な指導者を担ぎあげ、その強権発動に現状打破の期待を込める―。そうした維新的な現象は全国どこででも起こりうる。  (M)



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