2021年12月17日 1703号

【土木技術者が語る辺野古基地設計変更不承認の技術的理由/地盤調査せずに安全な工事はできない/完成できない基地建設を断念せよ】

 沖縄辺野古新基地建設工事に待ったをかけた沖縄県玉城デニー知事(2面参照)。沖縄防衛局の設計変更は護岸の安全性が確認できないとして認めなかった。ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)主催のスピーキングツアーに沖縄からゲストとして参加した2人の土木技術者がその理由を解説した。元自治体職員北上田毅さん(12/1京都)、1級土木施工管理技士奥間政則さん(12/2兵庫)の講演からポイントをひろった。

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 「最大の争点は、海底90mにある軟弱地盤の調査不足」と北上田さんは指摘した。不承認の技術的理由はこれに尽きるといってもいい。基地の外周を形作る重要な護岸が建設される場所の地盤の調査がされていないのだ。「災害防除が不完全」であり、そもそも基準に基づく安全性の審査ができないから認めないという当たり前の結論だ。

 政府・防衛省は地盤の強度を調べるというモノづくりの基本さえ行わなかった。沖縄防衛局が2013年仲井眞弘多(ひろかず)知事(当時)から承認を得た当初の埋め立て計画には、軟弱地盤はなかった。沖縄防衛局はその計画のまま17年、護岸工事を始めた。しかし、着工時にはすでに軟弱地盤の存在は分かっていた。

 共同通信の報道(11/28)について質問が出た。「14年〜15年に地質調査を請け負ったコンサルタントから沖縄防衛局は軟弱地盤があると業務報告を受けていた」と報道内容を北上田さんが解説した。北上田さんの情報公開請求で沖縄防衛局が軟弱地盤の存在を公式に認める3年も前のことだ。

 実は沖縄防衛局は17年、密かに追加の調査を行っている。だが調査船ポセイドンによるこの調査は、「海底から実際の土を採取する標準貫入試験ではなく、電極による電気探査とコーン貫入試験で、地盤の強度を示す数値がとれないものだった」と北上田さんは説明した。にもかかわらず、沖縄防衛局の設計変更は、約300mと約750m離れた2地点から類推した数値を使った計算で、安全だと言い張っている。知事はこの杜撰(ずさん)さを不承認理由の一つにあげた。

防衛局のごまかし

 ポセイドンの航跡情報から活断層の存在を暴く端緒をつくった奥間さんは、学者・技術者が結集した「沖縄辺野古調査団」の成果を紹介する。その1つとして、「わずか震度1、2程度の地震で護岸は崩壊する」解析結果をあげた。調査団は沖縄防衛局が想定した土の強度を示す数値を使って計算した。計算式も一般的な解析方法であり、沖縄防衛局もわかっていたと思われる。

 県は不承認理由の「施工時の地盤の安全性について」の項でこの点に触れている。沖縄防衛局の安全性の検討は土質調査がされていないために都合よく仮定した数値を使ったもので、合理的な説明になっていないと指摘している。

 奥間さんはさらに、不承認理由にはあがっていない重要なごまかしを紹介した。「県が防衛局に出した質問は4回と報道されているが、調査団は5回目の質問を県に出している」。耐震設計に用いる地震の大きさをごまかしている点を指摘したものだ。

 沖縄防衛局が耐震設計に用いた地震は2008年12月11日に沖縄島の西側沖で起きたマグニチュード4・9。ところが、10年2月27日に東側沖でマグニチュード7・2の地震が起きている。マグニチュードで2・3の差、エネルギー換算で200倍近い差がある。過去に生起した地震を対象とするなら、当然、辺野古のある東側沖の地震を想定すべきだ。この地震では護岸が崩壊する結果となるため回避したとしか思えない。

すべての工事を止めろ

 沖縄防衛局が変更設計承認を提出してから1年半。県の450件を超える質問に、まともに答えることはなかった。基地及び建設工事が環境に与える影響を事前に評価を行う環境アセスメントについても、実際の条件(砂杭打設による軟弱地盤の盛り上がり、完成後の自衛隊米軍共同使用など)を想定していないなど問題点は山積みのままだ。

 この状態で政府はまたもや行政不服審査法を使って不承認の取り消しを行おうとしている。いわゆる私人なりすまし≠セ。だが、これまでとは異なる点を北上田さんは指摘した。「不承認が取り消されたとしても、変更設計が承認されたことにはならない」。

 つまり、軟弱地盤に対する安全な工法を示さない限り、建設工事は続けられないということだ。基地は完成しない以上、すべての工事をとめるべきだ。



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