2022年1月14日 1706号

【全世代型社会保障の正体 高齢者攻撃は突破口 すべての世代の社会保障縮小・解体】

 12月24日、2022年度政府予算案が閣議決定された。メディアは社会保障費について「(高齢化の影響で)過去最大、36兆2735億円」と繰り返し強調し、財務省は「社会保障関係費の実質的な伸びは高齢化による増加分」とする。

 だが、高齢化に伴う最低限必要な自然増分6600億円ですら4400億円と、2200億円も「抑制」=大削減された。安倍・菅政権が「全世代型社会保障改革」の名で進めてきた社会保障制度の解体攻撃は、岸田政権でも「全世代型社会保障構築会議」と看板を変えて継続が宣言されている。

全世代の名で高齢者攻撃

 まず「全世代型社会保障」という呼称にごまかしがある。それは「少子高齢化と同時にライフスタイルが多様化する中で、すべての世代が安心できる」ものと説明される。本来社会保障はすべての世代が対象だ。あえて全世代≠強調することに政府の意図が透ける。

 その意図とは何か。現行の社会保障制度は高齢者中心との認識に立ち、今後の高齢化進行によって社会保障費がますます増える。この状態にメスを入れるとして、実際は社会保障費全体を削減することだ。「全世代型社会保障検討会議中間報告」(19年12月)は「現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造」を見直すことを求めている。

 11月9日、岸田政権の全世代型社会保障構築会議第1回会議が開かれた。この会議も社会保障制度の縮小・解体をもくろんでいることは、構成員のあけすけな発言から明らかだ。

 熊谷亮丸・大和総研副理事長は「負担能力のある高齢者は支え手に回っていただき、現役世代の負担増を抑える、そして、その財源の一部を使用して少子化対策を行う」ことが社会保障改革だと説明する。要は、高齢者への社会保障を縮小させその分を現役世代に回す。加えて高齢者の負担を増やせというのだ。

 増田ェ也座長代理は「社会福祉法人にある充実財産(注)は4000億円とも言われていますが、これを保育士や介護職員の処遇改善に有効活用いただく」と求めている。「特に緊要な経費の支出」(財政法)に限定されるべき補正予算で、軍事費7738億円が計上され、まともな審議もなく可決された。その予算を緊要な経費¥遇改善に振り向ければいいはずだ。また、積みあがる大企業の内部留保を処遇改善(賃金引き上げや労働条件改善)に使えと言うのではなく、社会福祉法人に対して貯えを使えと増田は要求する。

医・職・生活の充足こそ

 岸田政権は、看護・介護・保育労働者のあまりに深刻な実態の前に、その賃金を引き上げ、「分配」の看板政策にしようとしている。だが、額の少なさばかりか、現場での実効性の不備も早くも指摘されている。

 構築会議では、医療費削減を狙う地域医療構想推進や、デジタル化、生活保護攻撃などの発言も次々と出されており、岸田政権が社会保障攻撃を仕掛けてくることは間違いない。

 対抗するにはどうすべきか。社会保障財源の国際比較では、日本は事業主負担が少なく本人負担が多いという特徴がある(図1参照)。まず、この事実を指摘し、事業主―資本に応分の負担を求めなければならない。さらに、衣食住および医(医療と介護)・職(仕事)・充(健康で文化的な生活)の充足こそが社会保障の内実を作る。新型コロナ禍がこれを可視化したことを受け、要求を明確化することが必要だ。



 全世代への社会保障施策を考えるなら「住宅手当こそ代表だ」(社会福祉学者・岩田正美日本女子大名誉教授)との意見がある。だが、全世代型社会保障の検討項目に住宅政策はない。住宅手当の実現だけでも救われる人は多い。

 このように高齢者も他の世代も、社会保障の充実の必要は共通することを訴えなければならない。社会保障制度削減・解体という「全世代型社会保障」の狙いを暴いていくことだ。

(注)事業継続への控除分を除いた再投下可能な財産
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