2022年1月14日 1706号

【維新府政と「読売」が連携協定/パートナーという名の広報装置/万博・カジノのための情報統制】

 大阪府と読売新聞大阪本社は12月27日、情報発信など8分野にわたる包括連携協定を結んだ。国内最大の発行部数を誇る新聞社が維新府政の公式パートナーとなり、広報・宣伝活動を担うことになる。維新サイドの狙いは明白だ。万博推進やカジノ誘致に向け、都合の悪い事実を隠しておきたいのである。

情報発信で「協力」

 包括連携協定は「パートナーとして密接な連携により、府民サービスの向上、府域の成長・発展を図ること」を目的としている。大阪府がこの協定を新聞社と結ぶのは初めてのこと。たしかに前代未聞の出来事である。報道機関が監視対象である巨大行政機関と提携し、その広報装置になるというのだから。

 連携事項は、▽教育・人材育成▽情報発信▽安全・安心▽子ども・福祉▽地域活性化▽産業振興・雇用▽健康▽環境―の8分野に及ぶ。地域活性化の項目には「2025年日本国際博覧会の開催に向けた協力」が明記されている。

 「読売」大阪本社の柴田岳社長は「報道で何か協力していくということではまったくない。万博に関しても問題点はきちんと指摘し、ここは伸ばしていけば良いという点は提案する。そういう是々非々の報道姿勢を主体的に貫いていく」と強調(12/27)。吉村洋文知事も「表現の自由、知る権利が左右されるものではない」と呼応した。

 たしかに協定書には「取材、報道、それらに付随する活動に一切の制限が生じないこと」「優先的な取り扱いがないこと」といった内容が明記されている。しかしこれは体裁を整えるための方便にすぎない。

 新聞社が社として万博推進の役割を担うのだから、取材・報道の現場に影響が及ばないはずがない。批判的な観点からの検証を放棄したり、都合の悪い事実を報じないなどの自主規制が当然予想される。

 維新側が今回の協定に期待する効果もここにある。万博推進、そしてカジノを中核とするIR(統合型リゾート施設)誘致に血道を上げる維新にしてみれば、メディアの抱き込みで隠蔽したい「都合の悪い事実」が山ほどあるのだ。

隠したいカジノの闇

 ここで2025年に開催される大阪・関西万博とIRの関係をおさらいしておこう。会場は大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)だが、元々の候補地はここではなかった。当時の大阪府知事・松井一郎(現市長)がトップダウンで夢洲開催を決めた。

 なぜか。夢洲がカジノ候補地だったからだ。カジノ誘致だけが理由では、インフラ整備(地下鉄延伸・新駅設置、道路拡張など)などへの税金投入を疑問視する意見が噴出する。そこで万博という大義名分を立てたというわけだ。



 松井は「IR、カジノに税金は一切使いません。民間事業者が大阪に投資してくれるんです」と住民に説明してきた。これは大嘘だ。実際には万博を隠れ蓑にして、莫大な税金をカジノのために投入してきた。

 だが、そのカジノの雲行きが怪しくなってきた。コロナ禍の影響でカジノ業界は業績悪化に苦しんでいる。カジノ目当ての外国人客が大挙して訪日するような見通しは全くない。世界最大規模のカジノ運営会社である米ラスベガス・サンズは「収益性に対する疑義」から日本進出を断念した。

 カジノの実現性が不透明になってきた今、民間企業は夢洲の開発に参入するにはリスクが大きいとみている。実際、夢洲新駅の周辺整備・運営を担う事業者を市が公募したところ、応募は1社もなかった。

 「捕らぬ狸の皮算用」のツケを払わされるのは住民だ。松井は「万博に間に合わせるため、公共工事として市が実施する」としたが、新駅周辺整備の総工費は約30億円にのぼる。

住民の「身を切る」

 さらに、IR建設予定地の土壌改良費として大阪市は約790億円もの公費を負担するとしている。地質調査の結果、地震で液状化する恐れのあることが判明。また、基準値を超えるヒ素やフッ素などが検出されたからだという。

 夢洲と同じ大阪湾の埋め立て用地の販売で、市が土壌改良費を負担したケースはない。毎日新聞がスクープした市の内部資料には、「民間業者の建設費の一部を負担するとみなされ、地盤改良をせずに売却してきた土地との公平性を保てず、住民訴訟で敗訴する可能性がある」という弁護士の意見が紹介されている(12/28毎日)。当然だろう。

 ところが、松井は「誘致を決めた以上、IRが成り立つ土地を提供するのが市の責務だ」との理屈で公費負担を決めた。大阪府・市がカジノ事業者に選定した米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス連合への便宜供与としか言いようがない。

 かくして「IR、カジノに税金は使わない」の公約は反故にされた。維新は「身を切る改革」を看板公約にしているが、実はカジノのために住民の身を切っているのである。

全国から抗議を

 松井や吉村は「カジノの経済効果は年1兆2千億円」とうそぶいて税金投入を正当化しようとしているが、経済効果の根拠は示さない。積算根拠となる元データをIR推進局に情報公開請求しても黒塗りの資料しか出さない。

 このように維新府政・市政は「万博・カジノの闇」をひた隠しにしている。大阪の財政を破綻に追い込んだ大規模開発失敗の二の舞を踏む可能性が高いからであろう。メディアを共犯者にして情報隠蔽を図る動機は十分にあるのだ。

 今回、「読売」が先陣を切ったことで、追随するメディアが出てくることが予想される。大阪で圧倒的に支持されている維新とは、協力関係を結んだほうが得策との経営判断からだ。

 そうなれば維新に批判的な報道はなくなり、やりたい放題が加速する。まさに民主主義の危機である。大阪だけではなく、全国から抗議の声を突きつけねばならない。     (M)

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