2022年1月21日 1707号

【生きものたちへの畏怖 伝える/山内若菜展in鶴見 おわりははじまり/分かち合った光と多様性の世界】

 山内若菜さんの絵に感動し、その創作姿勢に共鳴する仲間たちが「チーム若菜」を立ち上げ、12月23〜25日、横浜・鶴見区で展示会を催した。来場者は3日間で160人以上。絵を市民の手に取り戻す試みは大きな手応えをつかんだ。

 鶴見展のテーマは「若者の生きづらさ」。若菜さん自身、就職超氷河期世代の一人として、印刷会社で15年間、朝から夜・明け方まで、土曜日曜もなく、残業代も出ず、心を失うような働き方をしてきた。タイトル「おわりははじまり」には、そんな生きづらさをしっかり終わらせ、小さくとも始まりの希望を感じとってほしいという願いを込めた。

見えないものを見えるよう

 初日に行われたワークショップには、小学生を含む10人ほどが参加。

 若菜さんから「ここは色を塗っても大丈夫」「筆もいろんな種類を使ってみたら」「この白いところを動物の顔にするとおもしろいかな」と優しくアドバイスを受け、一同、言葉を交わすこともなく熱心に絵筆を動かした。

 40分足らずの間に十数点の絵が完成。床に並べて互いの作品を講評し合う。「Tシャツのデザインになりそう」「色遣いがいい」「地球が泣いてるみたい。壮大なストーリー」。若菜さんも「いろんな意味があるのが、絵。写真じゃない。多様性がある。ネコだったり仏像だったり、何にでも見える。そういう二重性を意識すると、光と多様性が出てくる。それが絵の楽しみ」と喜んだ。

 ギャラリートークでも、光と闇について、写真とは違う絵の可能性について「飯舘村は全村避難。夜は真っ暗だが星はきらめいていて、闇が深いからこそ光を強く放っていると感じた。夜の中に光がある。苦しみの中にこそ光がある」「ニュースにもならないような、声がないような存在を考える。見えているものをそのまま写すのではなく、見えないものを見えるようにする。絵描きとしてそれをやりたい。だから福島に通い続ける」と語る。

自然 動物 植物への讃歌

 最新作は『神々の草原 トリニティ』。生まれ、死に、そしてまた生まれてくる動物や植物すべてに対する讃歌だ。若菜さんが解説する。「人間は3万8千年前、原人だった頃から洞窟に絵を描いてきた。食べたい欲求からなら、食べられない動物は描かないはず。自然と自分たちと動物たちとは一体というイメージではないか。人間だけじゃない、動物たちも世界にはいっぱいいて神々しい光を放っている。いろんな生きものがともに生きていて、そして自分たちがいる。生きものたちへの畏怖の気持ちを込めて描きました」

 最終日、対談した芸術評論家の石川翠(みどり)さんは、丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻が『足尾鉱毒の図』の『谷中村野焼き』で炎の中を逃げ惑う鳥やヘビ、昆虫などを描いたことを紹介。「これは小動物のジェノサイド。ヒバクしたのは人間だけではない。動物もヒバクシャであり、人間の都合で殺されてきた」と指摘し、丸木夫妻の仕事を継ぐ若菜さんの創作活動を高く評価した。

 鑑賞した人たちからは「若菜作品はさらにパワーアップ」「実物の絵を前にして特大の存在感に圧倒された」「大きなものに包み込まれるような感覚。根源的な『いのち』の尊厳が絵具から滲み出している」といった感想が相次ぐ。

 チーム若菜のまとめ役、神谷宗孝さんは「6月の藤沢展で改めて若菜さんの絵の力を感じ、9月から8回のミーテイングを重ねて準備してきた。政治的な発信を政治的に行うだけでは狭まってしまう。それぞれが表現者として参加できる形が運動を広げる力になる。今回はよい機会だった」と振り返っている。



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