2022年1月21日 1707号

【コロナ感染源と化した米軍基地/日米地位協定という抜け穴/それでも岸田は「見直さない」】

 在日米軍基地を「震源地」とする新型コロナウイルスの感染が急増している。米軍に「日本の検疫免除」などの特権を与えている日米地位協定に問題があることは明らかだが、その見直しを岸田文雄首相は重ねて否定した。自国民の生命・安全よりも日米軍事同盟を優先する姿勢は変わらない。

 コロナ対応の特別措置法にもとづく「まん延防止等重点措置」が適用された沖縄県。新規陽性者数は過去最多を連日更新。多数の医療従事者が感染したり濃厚接触者になったりすることで、病院機能にも影響が出ている。本島中部では、複数の病院が救急閉鎖に追い込まれたという(1/6沖縄タイムス)。

 昨年12月中旬以降、県内各地の米軍基地で大規模なクラスター(感染者集団)が発生。感染は周辺地域にも広がっていった。県は国立感染症研究所の解析結果をもとに、基地からオミクロン株が拡大した可能性が高いと判断した。

 山口県の感染拡大も米軍岩国基地が発端とみられる。ゲノム解析の結果、感染した日本人基地労働者と岩国市内の飲食店員の型が同一だったことが判明した。

 沖縄県の玉城デニー知事は「米軍の感染拡大防止対策と管理体制の不十分さを示すものと言わざるを得ず、激しい怒りを覚える」(1/2)と批判した。知事の怒りは当然である。日本の感染対策と「整合的な措置を取る」という米軍の説明は大嘘だった。

ずさんな米軍の対策

 昨年9月以降、米軍はワクチン接種が進んだことなどを理由に、日本に向けて米国を出国する際のPCR検査を免除していた。入国直後の検査はそもそも行っていなかった。入国後の行動制限はあるにはあったが、基地内を自由に移動することができる状態だった。

 基地で働く労働者の労働組合「全駐労」沖縄地区本部は、米兵が基地の中でマスクを着けずに行動していたことを問題視。去年の11月の時点で防衛省を通して感染対策を徹底するよう求めていたが、聞き入れられなかったという。

 基地の外でもマスクなしで出歩く米兵の姿が繁華街等で目撃された。大規模感染が起きたキャンプ・ハンセン所属の海兵隊員が飲酒運転で現行犯逮捕される事件も立て続けに起きている。玉城知事が基地からの外出禁止などを要請しても(12/21)、米側は「封じ込めに成功している」と聞き流すだけだった。

 中国外務省の報道官は1月5日、「米軍は駐留する国の防疫ルールを尊重せず、たびたびスーパースプレッダー(感染拡大に拍車をかける人物)になってきた」と述べた。米中対立を背景とした当てこすりであることは明らかだが、発言内容自体は的を射ている。

元凶は地位協定

 「水際対策はどこにいった」と疑問に思った人も多いだろう。日本政府は現在、オミクロン株の流入を阻止するために入管法を根拠に外国人の新規入国を原則禁止している。しかし、米軍人・軍属やその家族は対象外だ。日米地位協定により「出入国自由」の特権が与えられているからだ。

 米軍の構成員は軍の飛行機や艦船で日本国内の米軍基地に直接入ることができる。この場合、外国人の登録・管理に関する日本の法令は適用されない。よってパスポートもビザも必要なく、日本の検疫も免除されているというわけだ。

 これでは「水際対策」など意味をなさない。各地の米軍基地を経由してコロナ感染が広がっているのは、日米地位協定に起因する「構造的な問題」(玉城知事)なのである。だが、日米両政府は「不要な外出の制限」でお茶を濁すつもりだ。岸田首相は地位協定について「見直しは考えていない」と明言(1/6)。基地が感染源になったことすら認めなかった。

軍隊は住民を守らない

 日本政府の態度がこうだから米側は安心しきっている。事実、米軍チャーター便の運航計画をみると、1月以降も基地を経由して自由に出入国する計画を立てていることが分かる(1/9しんぶん赤旗)。

 1月7日の衆院議院運営委員会では次のようなやりとりがあった。日本共産党の赤嶺政賢議員が「現行の地位協定の下でも日米間で合意すれば入国停止はできるはず。米側に提起すべきだ」と質した。コロナ対策を担当する山際大志郎経済再生担当相はこう答えた。「日米同盟の抑止力は必要だ。毀損するようなことは判断しない」

 これが岸田政権の本音である。日米軍事同盟の強化を進める連中にとって、米軍の軍事特権の源泉である地位協定の見直しは考えてもいけないことなのである。日本国憲法が保障した生存権がいとも簡単にないがしろにされる―。やはり軍隊は住民の命を守らないということだ。    (M)

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