2022年1月28日 1708号

【福島原発事故トリチウム汚染水 東電が設備計画を申請 危険な海洋放出を許すな】

 福島原発事故で発生した汚染水を1`沖合の海底に放出するためのトンネル建設に向けた海底調査は当初予定より2か月以上遅れ、11月27日に始まった。

 海洋放出するにあたって政府・東京電力は、汚染水を多核種除去設備(ALPS)などで処理してほとんどの放射性物質を取り除き、取りきれないトリチウム(三重水素)は海水で法定基準(1g当たり6万ベクレル)の40分の1以下に薄めて海に流すと説明する。年間のトリチウム放出量は、事故前の目標値である22兆ベクレル未満にするという。現在タンクに貯蔵されている汚染水に残存するトリチウムの総量は860兆ベクレルとされ、半減期12年、毎年の汚染水の増加などを考慮すると、汚染水の放出完了までに30年以上かかると見込まれている。

 政府・東電は「汚染水」と呼ばれることを嫌い、「ALPS処理水」などと呼ぶ。だが、ALPSを通した「処理水」を保管しているタンクの7割にはトリチウム以外の放射性物質(ストロンチウム90など)が国の排出基準を超えて残存していることが明らかになっている。東電は、放出前に再度ALPSに通して除去するというが、トリチウム以外の核種が完全に除去できるわけではなく、「処理」しても汚染水であることに変わりはない。


トリチウムの危険性

 政府・東電は、(1)世界中の原発でトリチウムは日常的に放出されており、共通する健康影響は見つかっていない(2)トリチウムは水として存在するので、人体にも魚介類にもほとんど溜まらず排出される―など、薄めて放出すれば無害との宣伝を繰り返している。

 実際には世界各地で原発が放出する放射性物質による健康被害が報告されており、トリチウムがその主犯として疑われている。

 カナダのピッカリング原発の周辺では小児白血病・新生児死亡率・ダウン症候群が増加した。フランスやドイツでも「各原発から5`圏内」で小児白血病が通常の2倍以上発生しているという報告がある。

 日本でも、トリチウム放出量が多い加圧水型の玄海原発(佐賀県玄海町)周辺で白血病が多発しており、長崎県壱岐市(壱岐島)で白血病死亡率が「玄海原発稼働後、約6倍に増加」と地方紙が報道した(2019年3/1壱岐新報)。同じ加圧水型の泊(とまり)原発(北海道泊村)周辺でも、稼働後にがん死亡が増加し、がん死亡率は泊村が道内1位、隣の岩内町が2位となった。

 トリチウムは体内に入ると、細胞内水や有機結合型トリチウムとなって細胞やDNAの中に入り込む。ベータ線を出しながらヘリウムに変わっていき、周りの細胞やDNAそのものを損傷させる。




「風評」ではなく実害だ

 脳神経科学者の黒田洋一郎さんらは「トリチウムは脳細胞でも、被曝した細胞のDNAに変異を起こし、異常を生じさせる」とし、日本で福島原発事故以後にアルツハイマー病や統合失調症、一般の精神疾患が急に増えていることについて、「脳関係の疾患については、『トリチウムの脳細胞への長期蓄積による神経細胞などの異常、脳機能への影響が原因』とすれば説明できる」(黒田洋一郎『発達障害の原因と発症メカニズム』)と指摘している。

 12月2日、福島第一原発の汚染水の海洋放出に向けた設備予定地の状況を視察した原子力規制委員会(以下、規制委)の更田(ふけた)豊志委員長は「2030年春の放出開始を考えると、かなり苦しい時期に来ている。東電には年内に設備計画を申請するように求めた」と述べた。それを受けて、東電は同21日に設備計画を申請した。規制委と東電が一体となって海洋放出を進めようとしている。

 全国漁業協同組合連合会(全漁連)は海洋放出に「絶対反対」の立場を表明している。これに対し政府は、風評被害が生じた水産物を買い取るための基金を設ける。金で黙らせようというのだ。

 しかし、漁業者が補償を受ければ済む問題ではない。海洋汚染が住民の健康被害を引き起こすという問題なのだ。トリチウムの危険性を訴え、海洋放出計画を阻止しなければならない。
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