2022年1月28日 1708号

【インチキまみれの大阪カジノ計画/「維新」得意の催眠商法/怪しい経済効果、巨額の住民負担】

 大阪府と大阪市が進めるカジノ・IR誘致計画は、「維新の会」が得意とする詐欺商法である。「経済効果」の根拠はいい加減。「税金は一切使わない」と約束しておきながら、莫大な公費負担が後出しで示される…。こんなペテンに騙されてはいけない。

都構想と同じ手口

 「増税する前にカジノ。大阪にカジノを含めた統合型リゾート(IR)を作れば世界から人が呼び込めて、とてつもないパワーとなる」「こんな猥雑(わいざつ)な街はない。ここにカジノを持ってきて どんどんバクチ打ちを集めたらいい」

 これは「維新」創業者の橋下徹が大阪府知事だった頃の発言である。「小さい頃からギャンブルを積み重ね、勝負師にならないと世界に勝てない」とも語っていた。あれから十数年。大阪のカジノ構想は今どうなっているのか。

 大阪府・市は昨年末、カジノを中核とするIR誘致のための区域整備計画案を公表した。予定地は大阪市の埋立地・夢洲(ゆめしま)で、2029年度の開業を目指す。初期投資額は1兆800億円。事業者に選ばれた米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスを中心に、パナソニックやJR西日本など20社が出資に加わる。

 区域整備計画はIR実施法にもとづくもので、誘致を希望する自治体は国の認可を受ける必要がある。大阪府・市は両議会で同意を得た上で、4月頃に提出する方針だ。1〜2月には住民向けの説明会・公聴会が行われる。

 計画案はカジノ・IRがもたらす経済効果を年間1兆1400億円と見込んでいる。雇用創出効果は9・3万人。府と市には毎年1100億円の納付金が入る。それでいて「税金は一切使わない」(松井一郎市長)というのだから、夢のような話である。

 というより、これは「維新」得意の催眠商法以外の何ものでもない。過大な経済効果を根拠も示さず触れ回り、住民負担には知らぬ顔を決め込んでいるのである。いわゆる大阪都構想のPRと同じ手口だ。

「税金不要」の嘘

 まずは「税金不要」の嘘から見ていこう。夢洲のインフラ整備費用は約1240億円。その8割強を大阪市が負担する。それに加え、液状化や土壌汚染などの対策として約790億円の追加負担が最近公表された(2月の市議会に関連予算案が提出される予定)。

 これで終わりではない。大阪市の試算によると、夢洲への地下鉄延伸と新駅の整備費が当初の予定から129億円増えるという(1/12朝日)。想定外の軟弱地盤への対応、新たに判明したメタンガスの防爆対策、駅周辺設備の増強などに使われるとのことだ。

 「軟弱地盤対策で追加負担」とはどこかで聞いたような話だが、夢洲はもともとゴミ処理場として利用するために埋め立てられた土地である。埋め立て土砂には不法投棄された産業廃棄物が大量に含まれている。有害物質が新たに出てくる可能性は十分ある。

 大阪市はこれまで、市有地を民間に売却・賃貸する際、その後に土壌汚染が見つかっても市が対策費を負担しない契約を結んできたが、今回は市の責任として負担することにしたという。異例の決定を主導したのは松井である(12/28毎日)。カジノ・IR事業者のために、税金でお膳立てをするということだ。巨額の負担を背負わされる市民はたまったものではない。

ハッタリだらけ

 市民負担の問題を指摘する声に松井はツイッターで噛みついた。いわく「IRの経済効果は年、1兆2000億円、カジノの負担金は大阪市だけでも毎年550億円、借地料が毎年25億円、これらが市民へのリターンです。これでも市民負担ですか? しっかり算盤を弾いて下さい」

 しかし、そろばんを弾きようにも「経済効果」の根拠がはっきりと示されていない。情報公開請求に対してIR推進局が出してきたのは、金額部分がすべて黒塗りの紙資料なのだ。

 公開されている数字も怪しいものばかり。整備計画案に盛り込まれたIRの収支見通しによると、3年目には約1987万人が来場し、売上高は約5200億円になるという(このうちカジノには約1610万人が来場し、IR売上高の8割を占めると予測)。

 関西最大の集客力を誇るUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)でも、年間入場者数が1500万人に届いたことはない。5200億円という売上高予測は、ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドのコロナ禍前の水準に匹敵する。どう考えても過大評価なのだ。

 コロナ禍が収束し、海外客が押しかけるとの期待も甘すぎる。欧米や中国の富裕層にとって大阪のカジノは魅力的な場所ではない。つまりカジノ事業者が計画通りの収益を上げるには、大勢の地元住民からカネを巻き上げ続けるしかないのである。冒頭の橋下発言ではないが、万人をギャンブル漬けにしなければならないということだ。

バクチ打ちの発想

 ギャンブルは付加価値をうまないゼロサムゲームである。賭けを通じたポケットからポケットへのカネの移動でしかない。ギャンブルに消費される時間や経済的資源を増やすことは、経済全体の生産性をむしろ低める結果となる。要するに、カジノの経済効果なるものは幻想だということだ(ギャンブル依存症の問題は別の機会で論じたい)。

 咲洲(さきしま)、舞洲(まいしま)、夢洲などの大阪のベイエリア開発は破綻と失敗の連続だった。重化学工業の誘致に失敗、2008年のオリンピック招致にも失敗、橋下が開発の起爆剤として進めた咲洲への「府庁移転」もうまくいかなかった。

 松井や吉村洋文府知事はカジノ誘致で一発大逆転を狙っているのだろうが、それこそ懲りないバクチ打ちの発想である。巨大開発頼みの時代はもう終わった。「負の遺産」が「カネのなる木」に化ける魔法などないのである。   (M)

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