2022年02月04日 1709号

【第2次安倍政権下で続発した統計不正/国交省「建設受注統計」水増し集計/中小企業に深刻な被害のおそれ】

 またも発覚した政府統計改ざん。昨年12月、国土交通省が毎月集計する「建設工事受注動態統計調査」(受注統計)で水増ししていたことが発覚した。追及を受けた岸田文雄首相は、ひと月以内に調査結果を示すと答弁したが、その報告書が1月14日に提出された。

 報告書をまとめた国交省の統計不正検証委員会は「作為的な意図は認められなかった」などと結論づけ、不正の原因は、「事なかれ主義、責任回避、隠蔽(いんぺい)、先送り」にあるとした。野党はさらなる問題の深掘りを求めたが、与党は応じないことを明言。またもやうやむやにして、やり過ごそうというのだ。

 統計不正は単なる不祥事にとどめられる問題ではない。「国家の存するところ統計あり」(19世紀のフランス統計学者モーリス・ブロック、日本の統計に貢献)との警句がある。逆に読むと、統計がしっかりしていなければ国家の存立が危なくなるともいえる。だからこそ政府関連の資料でもこの警句が何度も引用されており、統計の重要性は共有されてきたはずだ。

統計不正の影響

 統計とは何か。モーリス・ブロックの言葉を引用している「政府統計の構造改革に向けて」(2005年内閣府経済社会統計整備推進委員会)の解説を見てみよう。「統計は、人口、経済、社会等に関してその集団の状態を客観的に把握することで、国や社会の姿を映し出す『鏡』となり、進むべき方向を示す『羅針盤』ともなる」と書いたのち、「国家の成立以来、洋の東西やその名称の如何を問わず、とりわけ軍事・財政上の必要に端を発して統計事業が連綿と行われてきた事実はその証左」と統計の意義と重要性を語っている。

 では、統計に不備あるいは不正があると、どうなるか。今回の受注統計の不正は中小企業に深刻な影響を与えるとの指摘がある。「支援が必要な業種を選ぶための好不況を示すデータがないためで、一部の業種は業況に関係なく支援の対象となっている。本来受けられるはずの支援を受けられない企業が出てくる可能性」(朝日新聞1/5)があるからだ。



 18年末には厚労省の「毎月勤労統計」(毎勤統計)で不正が発覚した。その影響で雇用保険や労災保険などの給付に不足を生じさせてしまった。これらの制度を利用しているのべ2000万人に総額530億円ほどの被害を与えたのだ。他にも、13年には物価偽装による生活保護費削減の例などが暴露されており、「鏡」がゆがみ、「羅針盤」が狂っている状態を生んでいる。

 いったいなぜ不正が続くのだろうか。

政権への忖度か

 国交省は会計検査院の指摘を受け、都道府県に指示していた受注統計の書き換え作業を止めさせたものの、かわりに国交省自身が書き換えを行っていた。担当者が生データを消しゴムで消すことまでしていたという。信じがたい行為であるが、自身には利益がないにもかかわらず担当者は不正に手を染めた。

 これは、一部の官僚が行った間違った作業ではなく、担当部署とその上局を巻き込んだ組織的な不正なのだ。不思議なことに、「実行部隊の『局長』は全員偉くなっていた」(日刊ゲンダイ12/17)事実もある。

 基幹統計である受注統計で水増し、二重計上が行われたのは13年からだ。毎勤統計も基幹統計であり、その「データ補正」は18年1月からだ。ともにGDP(国民総生産)の算出に使われるものである。いずれも安倍政権下での出来事であり、GDPを大きく見せてアベノミクスが成功しているかのように官僚が忖度(そんたく)したのではないか。森友問題で佐川宣寿理財局長(当時)が安倍の関与を消すために文書改ざんを指示したことと同じ構造が見え隠れする。

  *  *  *

 安倍・菅政権の反民主主義的路線を引き継ぐ岸田政権は、森友問題の真相解明を求められた裁判で「認諾」(被告からの損害賠償請求を認めて裁判を終了)することによって、不都合な事実を封じ込めた。

 この姿勢では統計不正問題の解明に期待はできない。統計が国家の根幹に位置するものであるならば、再発防止および改善のために生データの公開や虚偽報告の責任を問う仕組みを作るべきである。何より政策決定に科学的データや根拠など不要だと思っている政治家を追放しなければならない。
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