2022年02月04日 1709号

【JR社長も認めたリニア行き詰まり 総破綻の民営化見直しを】

トップが失敗認める

 「今の時点で開業の時期にめどが立ったということではない」。昨年12月22日の記者会見。トラブル続きのリニア中央新幹線の開業時期を問われた金子慎(かねこしん)JR東海社長の回答は報道陣を驚かせた。

 JR東海は「2027年開業」との公式見解を今も変えていない。それが、予定通りの開業ができないことはもちろん、開業時期を示すこともできないという。2013年10月、山田佳臣(よしおみ)社長(当時)の「リニアは絶対にペイしない」と並ぶ衝撃的発言だ。事業主体トップみずから失敗を認めたに等しい。

 開業のめどが立たない理由を、金子社長は「静岡工区が着工できないからだ」とする。大井川からの水量減少を危惧する静岡県に責任を転嫁するものだ。だがJR東海は岐阜県内の工事現場で昨年10月、初の死亡事故を起こしている。「発破(はっぱ)作業直後の十数分は『肌落ち』が起きやすいので現場に人を戻さない」(ベテラン作業員)という基本を怠った初歩的ミスだ。

 事故の検証どころか情報公開すらろくにせず、拙速に工事再開をもくろむJR東海の姿勢に、他の地域も不信を募らせる。2019年、山口工区(中津川市)で土砂崩れ事故が起きた岐阜県では、古田肇知事がJR東海に安全対策徹底と再発防止を申し入れた。県リニア推進室もJR東海の事故対応を不十分とし工事再開を認めない方針を示したため、10月の死亡事故後、岐阜県内のリニア工事は止まったままだ。



 大井川からの水を奪い南アルプスの自然を破壊する。巨大な断層帯を貫くため大地震が起きれば復旧できず廃棄される恐れもある。地下トンネル区間で事故が起きた場合の対応を住民に問われたJR東海は「お客様同士で助け合ってください」と言い放った。ここにきて開業時期も示せない失態を招いた原因はJR東海自身にあり、中止しかない。

廃線反対の闘い続く

 2021年3月限りで鵡川(むかわ)〜様似(さまに)(116・0km)を失った北海道。わずかな残存区間は日高本線を名乗りながら日高振興局管内をまったく走らない。日本の矛盾した鉄道政策が路線名にも現れている。



 国鉄清算事業団債務等処理法の一部改定により、2021年3月限りで失効予定だったJR北海道、四国、貨物3社への財政支援の延長が決まった。だが、長期化するコロナ禍で3社の今後には不透明感が漂う。

 緊急事態宣言解除後、中止されていた札幌駅前での「いちの日行動」(毎月1日)が11月に再開。廃線が提起されている留萌(るもい)本線沿線、北海道新幹線札幌延伸工事で発生した汚染物質・ヒ素を含む残土の手稲山口地区への強行搬入に抗議する札幌市民が次々にアピールした。

 新幹線をめぐっては、並行在来線となる函館本線長万部(おしゃまんべ)〜札幌間のうち、道やJR北海道が「特に乗客が少ない」として長万部〜余市間の廃線を提起する。だが1997年、北陸新幹線東京〜長野間開業に当たって行われた政府与党合意では、並行在来線のJRからの分離を認めるものの存続を前提とする。廃線提起は政府与党みずから決めた合意を反故(ほご)にするものだ。

 この区間では2両編成でも立客が出る時間帯があり、乗客が少ないとするJR北海道の主張は事実に反する。いずれの面からも廃線は撤回以外にない。

 11月、函館本線の存続を求めるニセコ町住民の会が同町内で開催した集会では山本契太副町長(町長の代理出席)があいさつ。路線存続を求めた。

 東鹿越(ひがししかごえ)〜新得(しんとく)間が災害で不通のまま、この区間を含む富良野〜新得間の廃線が提起されている根室本線沿線でも、根室本線の災害復旧と存続を求める会主催の集会が11月、新得町で開催。湯浅佳春町議会副議長が同区間の災害復旧と存続を訴えた。JR北海道の廃線攻勢で一度は離れかけた行政や議会を「引き戻した」(「根室本線の会」関係者)と沿線の市民は自信を見せる。

 住民の意思を無視して強行されるリニア建設とローカル線廃線を止める2022年が始まった。

 
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