2022年02月04日 1709号

【コロナ禍最悪でも「ようやってる」/維新べったりテレビの大罪/利権で結びつく吉本興業】

 大阪府は人口100万人当たりのコロナ死亡者数が全国ワースト1位。給付金や協力金の支給もずば抜けて遅い。それなのに吉村洋文知事は「よう頑張っている」と支持され、「維新の会」は選挙で勝ち続けている。摩訶(まか)不思議な現象の背景には、在阪テレビ局の「維新」礼賛報道がある。

正月から接待番組

 関西ローカル局毎日放送(MBS)の虫明洋一社長が1月19日、同局の正月番組に関する調査チームを設置したことを明らかにした。視聴者や番組審議会から「政治的公平性を極度に欠いている」との指摘が相次いだことを受けての措置だという。

 その番組とは、吉本興業所属タレントの東野幸治と吉田敬(ブラックマヨネーズ)が司会を務めるトークバラエティ『東野&吉田のほっとけない人』(1月1日放送)。松井一郎大阪市長、吉村洋文府知事、橋下徹元市長の維新トリオがゲスト出演した。

 まじめに語る吉村をガラの悪い先輩(松井)と口の悪いOB(橋下)がイジり倒し、司会の2人が合いの手を入れる。そんな掛け合いがおよそ45分間にわたってくり広げられた。

 番組は終始一貫して維新の政策を持ち上げる内容だったが、なかでも問題なのは、住民投票で2度も否決された「大阪都構想」の話題になったくだりである。「大阪をよくしようと都構想を頑張った」という東野のヨイショに気をよくしたのか、吉村はこんなことを言い出した。

 「僕が維新の代表じゃなくなる日はおそらく来ますけど、大阪維新の会は都構想をこれからも掲げます」。橋下がすかさず呼応した。「30年後に実現するかも。僕が言っているようになったら、バーカと(反対派に)言ってやりたい」

 現職の知事が民意を無視する発言をしても、司会の芸人はヘラヘラ笑うだけ。それもそのはず。東野も吉田も、維新応援団的な発言を自身の出演番組でくり返してきた。

 特に吉田は、都構想が否決された際、「未来の人の事を、己の給料を削ってまでやってくれた政治家の夢が、今日散った。最高だった大阪が、一夜で、最悪に変わった」とツイートしたほどの維新信者だ。今回の番組内でも、政界引退を公言している松井に「万博開催時に市長をしていたくないのか?」と、翻意を促す発言があった。

テレビが「ホーム」

 まさに「接待番組」だが、在阪テレビ局にとってはこれが平常運転である。局内で「おかしい」との声が上がり、社内検証をすることになった毎日放送はまだましな部類といえる。

 実際、他局の正月番組でも、維新の看板役者である吉村を「コロナ対策で手腕を発揮!」だの「『大阪モデル』などで被害を最小化」などと持ち上げた。維新が保健・医療体制の切り捨て政策を進めた結果、在宅死が多発する惨状を招いたことには触れないのだからあきれてしまう。

 批判らしい批判は皆無な「ホーム」状態だから、吉村は安心してテレビに出まくり、自己PRにいそしんでいる。ピーク時(一昨年5月)には月間30本も出ていた。ほとんど毎日である。この1か月間(1月22日まで)でも、出演した番組は11本を数える。

吉本の狙いはカジノ

 在阪テレビ局はなぜ「維新べったり」なのか。ある関係者は吉本興業の存在をあげる。「在阪各局、番組を制作するうえで吉本興業には頭が上がらない。特にMBSは吉本への依存度が高いと言われ、完全に足元を見られている状態です。視聴率が思わしくないからこそ、吉本に頼らざるをえないのが原因では」(1/20東京スポーツ)

 読売新聞大阪本社が大阪府と「包括連携協定」を結んだことが批判されたが、吉本興業は同協定を府とも市とも締結済みだ。2025年の大阪・関西万博も吉本は維新と二人三脚で進めており、万博PRを担うアンバサダーをダウンタウンの2人が務めている。

 選挙応援に所属芸人が動員されることも珍しくない。2017年の堺市長選挙では、新喜劇の面々やアイドルグループNMB48の卒業メンバーが維新公認候補の応援に駆けつけた。

 維新の応援団として振る舞う見返りは利権である。吉本はすでに府や市の事業を請け負うなどの利権を手に入れているが、究極の目標はカジノを中核とするIR(統合型リゾート施設)利権である。大阪にIRが来れば、関西のエンタメ業界を牛耳る吉本は大儲けできるというわけだ。

取り込まれるメディア

 維新と結託した吉本が在阪テレビ局への多大な影響力を駆使して、維新寄りの番組を作らせている――この構図はわかりやすいが、それだけではない。メディア自体が大阪における絶対権力者である維新に取り込まれている。

 橋下徹が大阪府知事に初当選した際、在阪テレビ局は身内同然のタレント弁護士の快挙に湧きたった。公務員叩きや中央政界批判に喝采を送り、「役所や大阪をともに変えるという同志的連帯感」を持つに至ったという(一連の経緯は、松本創著『誰が「橋下徹」をつくったか』が詳しい)。

 やがて橋下は気に入らない報道や記者個人を名指しで攻撃するようになるのだが、「橋下人気」におもねるメディアはさしたる反撃もせず、彼の言い分をたれ流し続けた。かくしてメディアは「権力の監視」という役割を放棄し、「維新べったり」が日常の光景となっていった。

 「それはお笑い芸人が報道番組のコメンテーターに起用される大阪の特殊事情だよ」と思われるかもしれない。だが、政界を引退しタレント業に専念している橋下は全国放送のテレビ番組に出まくっている(昨年1年間の出演総数は実に250回)。このように、維新のメディア支配は全国規模で進みつつある。ワイドショー番組をぼーっと観ている場合ではない。(M)



  
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