2022年02月11日 1710号

【ルポ 核ごみ最終処分場応募の村 36年ぶり村長選へ 絶対無投票にさせない 北海道・神恵内】

 2020年8月、町長による核ごみ最終処分地応募で寿都(すっつ)町が町を二分する騒動に揺れる中、少し遅れて静かに応募したのが神恵内(かもえない)村だ。筆者は昨年10月、神恵内現地にも入っている。寿都に続き、神恵内の「今」も追った。


静かな「本命」の村

 核ごみ最終処分地への応募が意外性と驚きをもって受け止められた寿都町に対し、道内でも神恵内村は早くから「本命」視されていた。泊(とまり)原発をめぐって、北海道電力との間に再稼働事前了解権込みの安全協定を締結するとともに、原発関連の交付金を受ける「地元4自治体」のひとつだからだ。泊が着工した1984年から2019年までの36年間で、神恵内村に56億円もの原発関係交付金が投入されている。

 村内に表立った反対運動がないことも「本命視」された根拠である。寿都の賑やかさと対照的に、神恵内村では核ごみ応募反対のチラシ、ポスターの1枚さえまったく見られなかった。

 昨年10月に現地入りした筆者も、地形を見て呆気にとられた。海岸線ギリギリにまで山がせり出し、その隙間を国道が走る。猫の額のようなわずかな平地に役場が置かれ、村民が肩を寄せ合って暮らす。



 高レベル放射性廃棄物はガラス固化体に加工しても、輸送中に致死量の放射線が出る。重さも約百トンに上るとされる。当然、普通の道路は走れない。原子力専門家は、核ごみ専用の高規格道路と広大な処分場用地が必要だと話す。そんな場所があるとは思えない。

 加えて、資源エネルギー庁が2017年に公表した核ごみ「科学的特性マップ」でも、神恵内村を含む積丹(しゃこたん)半島全域が不適地とされた。「地下深部の長期安定性等の視点」がその理由だ。

 そんな中、道内で根強くささやかれているのが「神恵内廃村」説だ。核ごみ誘致と引き替えに全村民が村を去り、村民が住む猫の額ほどの平地を処分地に明け渡すというのだ。神恵内村の人口がわずかに797人(昨年末現在)。道内でも音威子府(おといねっぷ)村(770人)に次いで少ないことを考えるとあり得ない話ではない。

 アイヌ語の「カムイ・ナイ」(険しく人が近づけない神秘的な沢)が神恵内の語源とされる。核ごみが埋められ、その名の通り人の近づけない場所となるしか未来はないのだろうか。

「過ち二度と」と立つ

 神恵内で最後に村長選が行われたのは1986年。チェルノブイリ原発事故が起きた年だ。それ以降すべて無投票だった。高橋昌幸村長(71)は6期目を目指すが、一度も選挙の審判を受けていない。声を上げようとする村民に対し、村長の後援会長が「村民の半分以上は村長の後援会員だ」と発言し公然と恫喝している。そこに1月、泊村在住の瀬尾英幸さんが立候補表明。36年ぶりの選挙戦だ。



 「無投票が長く続いたことがこの結果を招いた。次は絶対無投票にだけはさせない」との決意は固まっていた。だが昨年末、体調を理由に一度はあきらめかけた。若い立候補者を探したが見つからなかった。捨て身になって再び立つと決めたのは最近だ。

 若い頃は労働運動に生き、ストライキも打った。会社倒産後は労組で資本金を出して事業体に変え、みずから社長就任。ヒット商品を次々に生み出した。才気煥発のアイデアマンと地元誌は評する。1942年生まれ、79歳の戦中派だ。

 記者会見では「77年前、戦争を止められず敗戦を迎えた先輩たちと同じ過ちを犯したくない」と語った。当選したら核ごみ応募は撤回するのかとの質問には「村民みんなで熟議を尽くし、出た結論に従う。村トップになれば撤回するのは簡単だが、自分1人で決めても本当の意味での総意ではないと思っている」。労働運動、経営のリーダーを務める中で培われた「民主主義観」に、筆者は逆に本気度を感じた。

 瀕死の状態にある村の民主主義を立候補で蘇生させることができるか。村長選の結果は2月27日に出る。

     (水樹 平和)
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