2022年02月11日 1710号

【「お金をもらってデモ参加」と字幕」/NHK五輪映画特番の嘘/市民運動・デモへの偏見は明らか】

 東京オリンピック公式記録映画の撮影現場に密着したNHKの番組で、証言捏造による印象操作が行われた。「五輪反対デモの参加者」が「実はおカネをもらって動員されている」との字幕を付けて放送したのである。NHKは「不確かな内容」があったと謝罪したが、到底納得できるものではない。

捏造で印象操作

 問題の番組はNHKが昨年12月26日に放送したBS1スペシャル『河P直美が見つめた東京五輪』(大阪放送局制作)。東京オリンピック公式記録映画(今年6月公開予定)の河P直美総監督に密着し、映画づくりの過程を追ったドキュメンタリーである。

 番組中、競技外の出来事の撮影を担当した島田角栄監督が一人の男性から話を聞く場面が出てくる。画面には「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」との字幕が添えられた。

 しかし、この匿名男性は島田監督とのやり取りの中で、五輪反対デモに参加したとも金銭をもらったとも語っていない。番組全体でも金銭による動員があったと裏付ける内容はなかった。NHKの説明よると、補足取材の際に「五輪反対デモにも参加しようと思っている」という趣旨の発言があったそうだが、実際に参加したかどうかの確認取材はしていない。

 つまり番組は、事実ではない字幕を付けることで、「五輪反対デモは金銭による動員」であるかのように見せたのだ。批判を受けたNHKは「不確かな内容」が一部にあったとして謝罪したが、そんなレベルの話ではない。でっち上げによる印象操作である。

 謝罪文の内容も問題だらけとしか言いようがない。捏造番組で侮辱されたのは五輪反対デモの主催者や参加者なのに、被害者である彼らへの謝罪が一切ないのだ。河P総監督や映画制作チームに対する平身低頭ぶりとは対照的である。

公式映画への忖度

 NHKの正籬(まさがき)聡・放送総局長は「ディレクターが意図的にまたは故意に、架空の内容を作り上げたという事実はない」と弁明する。すべては「担当者の思い違いや取材不足が原因」というわけだ。

 また、「すべてNHKの責任で取材・制作しており、公式記録映画とは内容が異なります」として、「河Pさんや島田さんに一切責任はありません」と強調する(その2人も「事前に番組を確認していなかった」と関与を否定)。

 何とも不自然な弁解である。批判が五輪公式記録映画に及ぶことをNHKは全力で阻止したいようだが、それは無理な相談だ。なぜなら映画制作チーム自体に、反対運動への偏見が見てとれるからである。

 島田監督は「プロの反対側もいてはるし、ほんまに困ってる反対側もいてはるし」という発言を番組の中でしている。「反対派は普通の人じゃない」「金で釣っている」といった認識をNHKのスタッフと共有していたとしか思えない。

 そして河P監督は公式記録映画の意義についてこう語っていた。「コロナ禍を克服した証しとしての東京五輪の姿を後世に残すとともに、日本人が本来持つ精神性やアイデンティティー(同一性)の大切さを訴えたい」(2021年1月27日付産経新聞)

 安倍・菅応援団的な感性から五輪開催強行を支持した人物であることがわかる。五輪前に出演したワイドショー番組では「コロナ禍の脅威を煽らないで」と述べていた。そんな彼女が「反対派」をどう見ていたのか、想像に難くない。

 字幕の捏造はNHKの番組スタッフが独自に行ったことだとしても、そこには映画制作チームへの忖度(そんたく)があった―。こう考えるほうが自然であろう。

すべての運動への中傷

 デモや集会を「金銭での動員」として中傷する手口といえば、東京MXが2017年1月に放送した『ニュース女子』(ヘイト番組で有名なDHCの制作)がすぐに思い浮かぶ。ろくな取材もしないまま、沖縄の米軍基地建設に反対する市民に「日当」が支払われていると報じた。

 この一件は「重大な放送倫理違反があった」とBPO(放送倫理・番組向上機構)に指弾された。だが、今なお同種のデマが極右政治家やネトウヨによって振りまかれている。

 今回の捏造番組は五輪反対運動のみならず、すべての社会運動やデモに対する悪質な中傷である。市民の直接行動に負の印象を貼り付け、参加や連帯の意欲を削ぐものだ。番組を放送したNHKには真相究明と再発防止措置の責任がある。

 もちろん河P監督ら映画制作チームにも説明責任がある。「番組サイドが勝手にやったこと」では済まされない。     (M)

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