2022年02月11日 1710号

【読書室/破壊者たちへ 青木理著 毎日新聞出版 1700円(税込1870円)/権力の腐敗が招いた社会の荒廃】

 本書は、ジャーナリスト青木理(おさむ)の2018年から20年の夏までの時評集をまとめたものである。表題の『破壊者たちへ』は「社会を、理性を、平和を、憲法を、歴史を、メディアを、戦後の矜持を、そして人間を破壊した者たちへ」という意味で、安倍、菅政権とその追随者たちに対する怒りが込められている。

 青木の視点は一貫している。辺野古問題に象徴される国家権力の暴力的支配、日韓・日朝問題で端的な排外主義と歴史修正主義、五輪強行にあらわれた国威発揚と商業主義、政府のコロナ無策とその背後にある利権構造など、一強政治でゆがめられた真実とその背後にある深い闇に光を当てようとする姿勢だ。

 注目するのは「破壊者」に抵抗を続ける人々の姿だ。沖縄辺野古問題では、翁長雄志(おながたけし)前知事の樹子(みきこ)夫人や玉城知事へのインタビューを載せ、県民の意思を踏みにじる国家権力の暴力に対する怒りを伝える。

 著者は、政権に追随し差別と偏見を煽る人々を娯楽商品のように視聴者に投げ与えるメディアの現状にあきれ果てる。東京MXテレビ「ニュース女子」が報じた辺野古の反基地運動は、沖縄と在日コリアンへの差別と偏見に満ちたものであった。これも安倍一強時代の作り出した弊害だ。

 「差別と偏見をウリにするようなメディアに、前政権の主が嬉々としてインタビューを受け」「キングメーカー気取りで、レイシズムの臭いをぷんぷんと発散する者を支援する」と自民党総裁選での安倍の姿を皮肉り、「荒廃しているのは一番組でも一テレビでもない」―権力そのものが荒廃しているのだと著者は結論づけている。(N)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS