2022年02月11日 1710号

【子ども甲状腺がん裁判 提訴/17〜27歳の若者6人が立ち上がる/がんの原因は放射線被ばく 過剰診断ではあり得ない】

 原発事故当時、福島県内に住んでいた17〜27歳の男女6人が、放射線被ばくによって甲状腺がんを発症したとして1月27日、東京電力に対し計6億1600万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。原発事故と甲状腺がんの因果関係を問う裁判は初めて。

 原告らは事故当時6〜16歳。6人中4人は手術で甲状腺を全摘し、生涯ホルモン薬を服用しなければならない。4回もの手術を受けた原告や遠隔転移している原告もいる。進路や就職にも支障を生じている。

 記者会見で、井戸謙一弁護団長は「原告たちは思い描いていた人生を狂わされた。がんの原因は“被ばく”しか考えられないが、今の福島ではそう口にすればバッシングされる。質問しないのに『きみのがんは被ばくが原因ではない』と言う医者もいる。しかし、将来への不安は高まるばかり。泣き寝入りせず、加害者の東電に原因は被ばくと認めさせ、きっちりと償いをさせたい。思い悩んだ末、彼らは提訴という重い決断をした」と経緯を説明した。

 原告の1人は時おり声を詰まらせ、「手術した後は体調がずっと優れず、仕事を辞めた。私と同じく、行きたい大学や就きたい仕事を諦めた人もいる。差別されるのではと恐怖を感じ、誰にも言えず10年間を過ごしてきた。同じ状況の子どもたちが約300人いる。私たち6人が声を上げることで状況を少しでも変えたい。そんな気持ちで裁判に挑んでいる」と話した。

 「裁判官に一番伝えたいことは」との質問には、「甲状腺がんになった人たちへの恒久対策をしっかりしていただいて、サポートしてほしい」。原爆被爆者が被爆者健康手帳を交付され、生涯にわたって医療費や手当の支給を受けているのと同様の支援の枠組みを、原発事故被ばく者についても策定するよう訴えた。

他の皆さんの力になれば

 別の原告の母親もマイクをとり、「息子が穿刺(せんし)細胞診の検査で長い針を3回刺され、涙をこぼすのをそばで見ていて、胸が締めつけられた。事故を“なかったこと”にしない、被害者は今も苦しんでいるという気持ちを共有したい。原告になる決断をした息子を誇りに思う」と語る。

 「過剰診断」論に対し、井戸弁護士は「原告のがんはまさに進行中。過剰診断ではあり得ない。甲状腺外科の医師はガイドラインを作り手術適応を決めて、それに合致した症例についてだけ手術している」ときっぱり反論。検査縮小の動きにも原告から「チェルノブイリ事故でも健康被害があることは分かっている。早い段階で因果関係がないと断定するのはおかしい。しっかりと調査を続けてほしい」と希望が示された。

 支援集会には原告たちからボイスメッセージ。「長い道のりになりますが、ともに闘っていきましょう」「精神面体調面で不安定。すごくネガティブになっている。これからの人たちの先駆けになれるよう、応援してください」「今の段階では完治は難しい。将来がとても不安。この裁判が他の甲状腺がんのみなさんの力になれば」「この10年は復興の流れが強まり、この問題を出すことさえできずにいた」「原発事故と甲状腺がんの因果関係を明確にし、安心して暮らせる社会保障充実とまだ声を上げられていない方がたの救いのきっかけになりたい」

 提訴にあたり、原告たちは緑をイメージカラーに選び、横断幕やチラシも緑で統一された。「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」が結成され、裁判を支えるクラウドファンディングも始まっている。(郵便振替による寄付振込先:記号11380 番号11579501 名義「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」)

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