2022年02月18日 1711号

【2022経団連報告 グローバル資本の春闘指針=@労働者の権利破棄と解雇自由へ 資本主義に持続可能性なし】

 1月18日、日本経済団体連合会(経団連)は、2022年春闘の経営側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(以下、報告)を発表した。グローバル資本の代表らは、現在の労働者の状況をどう考え、コロナ禍の社会をどうしようとしているのか。

春闘賃上げ否定変わらず

 春闘は、毎春、労働組合が一斉に企業に対する賃上げ要求を提出し、統一回答日を設け、社会的な賃上げ相場を形成する闘いであった。報告は「収益が高い水準の企業においては、ベースアップの実施を含めた新しい資本主義の起動にふさわしい賃金引き上げが望まれる」としながらも、「業種横並びや一律的な賃上げの検討ではなく、各企業が自社の実情に適した賃金決定を行う」とする。

 春闘の相場形成力を通じた全体の賃金引き上げという春闘本来の社会的意味を否定するものだ。コロナ禍の不況の中でも、大企業の営業利益は過去最高を記録し、内部留保は20年度末にGDPの1・3倍704・3兆円までに達しているにもかかわらずである。

 最低賃金では、昨年の引き上げ額はわずか1円だが「影響率」が「4・7%」であったとし、最低賃金レベルで働く労働者が多いことを認めつつも、中小企業の事業継続が危うくなると引き上げに反対する。


労働力移動と解雇推進

 報告は、人口減少の進行、コロナ禍の入国規制による外国人労働者の大幅な減少、G7(主要7か国)で最下位の労働生産性への危機感をあらわにする。そして「わが国が成長力を高めていくには、(1)労働生産性の向上(2)労働参加率の上昇(3)成長分野等への円滑な労働移動を同時に進めていく必要がある」という。

 (1)労働生産性の向上については、労働者のエンゲージメント(組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢を表す概念)が大事とし、コロナ禍で広がったテレワークの常態化を推奨する。廃案になった「裁量労働制」の「課題解決型開発提案業務」(営業職)などへの拡大をまたぞろ要求している。裁量労働制は、何時間働いてもみなし労働時間分しか働いたことにならないため、「定額働かせ放題」とするのが狙いだ。近年、裁量労働制で働く労働者が過労死し労災認定される事例が増えていることなどまったく顧みない。

 (2)労働参加率の上昇に関しては、70歳までの高齢者雇用の拡大、外国人労働者の受け入れ拡大を挙げる。高齢者雇用の狙いは低賃金熟練労働力の確保にあり、「仕事がほとんど変わっていないのに、賃金が下がるのはおかしい」という不満が渦巻いている。技能実習制度は低賃金、無権利状態で多くの人権侵害を生み批判が広がっている。

 (3)円滑な労働移動≠目的とするものは、ジョブ型雇用の導入・活用と解雇無効時の金銭解決制度導入である。従来の新卒一括採用、社内教育を通じた技能習得、職種や勤務地変更を前提に終身雇用を保障とされる「メンバーシップ型雇用」に対し、欧米で一般的な「ジョブ型雇用」導入を強調する。労働者は、特定の仕事(ジョブ)を得るという意識で働き、給料は職務の内容によって定められ職務が限定されているので所属会社でのキャリアアップや昇給はない。一つの会社で数年働いたらキャリアアップのために転職。人材の流動性≠ェ高くなる。ジョブ型雇用を拡大し、金銭解決制度で解雇を容易にし、資本にとって都合のいい労働力移動を経団連は最大の課題としている。

 報告の労働政策は、昨年までと何ら変わらない。労働者の権利を切り縮めるものばかりである。

資本主義では解決不可能

 一方、報告の序文で十倉雅和(とくらまさかず)経団連会長(住友化学代表取締役会長)は「新自由主義の流れを汲む、行き過ぎた資本主義を是正し、『サステイナブル(持続可能)な資本主義』を確立する重要性」を繰り返し強調し、「行き過ぎた資本主義がもたらした社会課題として、無期雇用労働者と有期雇用労働者、大企業と中小企業の格差拡大が指摘される」と口にする。財界トップが心を入れ替えたのか。

 十倉は12月の講演でも次のように述べている。「世界的な行き過ぎた資本主義、市場原理主義の潮流によりもたらされた弊害は、一つは、格差の拡大、固定化、再生産。いま一つは、生態系の崩壊や気候変動問題、新型コロナのような新興感染症といったものです。こうした課題を踏まえて、これまでの資本主義の路線を見直す時期に来ている…。明らかに、格差は拡大しています。現在、アメリカのトップ1%の人が、所得シェアの20%を占め、また、資産シェアでは35%を占めています。世代をまたいで格差が再生産されていることが明らかです」





 こうした事態をもたらした元凶、新自由主義路線を推進してきたのはグローバル資本だ。その代表たる十倉が、あえて資本主義の深刻な「弊害」を指摘せざるを得ない。それは、そのまま放置すれば自分たちの存立基盤まで危うくなりかねないとの認識に立つからだ。

 しかし、報告に問題を克服する方針はなく、これまで通り労働者に犠牲を押しつける政策ばかりだ。それは資本主義を持続可能≠ニすることがもはや不可能であることを意味する。

 「サステイナブルな資本主義」「新しい資本主義」は、いずれも資本主義とその下の利潤の維持を至上命題とする。これに対して、今われわれが直面しているのは、社会と人類の生存そのものの維持なのだ。

 グローバル資本主義は利潤が利潤を再生産する超大型エンジンを搭載している。そのエンジンを止めない限り矛盾はなくならない。経団連会長は「資本主義の課題」は語れても解決策は打ち出せない。十倉が炭素ゼロ≠唱えたとしても、その政策は原子力発電30%とならざるをえない。

 *   *   *

 MDSは、未来なき資本主義ではなく、民主主義的社会主義への展望を掲げる。コロナ危機を理由としたいかなる解雇も禁止し、解雇の金銭解決制度や裁量労働制に反対する。最低賃金全国一律1500円以上を求め、労働者の権利を守り拡大する闘いを前進させる。



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS