2022年02月18日 1711号

【未来への責任(341) 佐渡金山 島民の願いに応える道は】

 岸田首相は1月28日、「佐渡島の金山」(以下、佐渡金山)の世界文化遺産登録をユネスコに推薦すると発表した。

 これに対し、韓国は佐渡金山が戦時中に朝鮮人が強制労働を強いられた場所だとして登録に反対。「明治日本の産業革命遺産」に関わって、ユネスコ世界遺産委員会が産業遺産情報センターの展示に「強い遺憾」を表明しており、委員会の出した改善勧告を履行するのが先決だと主張している。

 元イコモス(国際記念物遺跡会議)日本委員長の西村幸夫氏も「ユネスコの決議に応えず、次のもの(佐渡金山)だけ推薦してくるのは何だと言われかねない。決議にはきちんと対応すべきだ」とコメントしている。

 韓国の主張に理があることは明白で『朝日』(2/2)、『毎日』(2/1)、『東京』(2/4)などの各紙も同様の見解を社説で掲げている。

 しかし、日本政府は「いわれなき中傷には毅然として対応していく」「国際社会において正しい歴史認識が形成されることを重視」(2/3衆院予算委員会での松野官房長官答弁)と、韓国に「歴史戦」を仕掛けていくことを表明している。

 このような日本政府の対応はユネスコの理念にも、「文化遺産の解説と展示のためのイコモス憲章」(2008年)にも反している。同憲章では、遺産の解説には「遺産の意義に対するあらゆる時代の貢献を尊重すべき」「遺産の歴史的文化的な意義に貢献したすべてのグループを考慮に入れるべき」と謳(うた)っている。「江戸時代の遺産」だとか「韓国は無関係」などという主張は通用しない。

 佐渡鉱山で戦時中に朝鮮人を動員、強制労働させていたことは歴史的事実である。「新潟県史 通史編」、「佐渡相川の歴史」(いずれも自治体が編纂)で記述している。

 これに対し、「『募集』に応じて来た」「賃金は日本人と同等」「徴用は日本人も同じで、戦時だから強制労働条約違反ではない」などと反論する向きもある。いずれも間違いだ。「募集」で来たのに離職の自由はなく、「逃走」すれば労務調整令違反で罰せられた。また、1944年には佐渡鉱山は軍需会社に指定され、労働者はすべて「徴用工」とされた。「徴用」はこれに従わなければ罰金か懲役が科せられた。これで強制労働ではない、と言えるはずがない。戦後の労働基準法は、このようなことを根絶するために制定された。加えて、賃金支払いの有無は強制労働か否かを判断する基準ではない。

 日本政府は、「歴史戦」に血道をあげるのではなく、ユネスコの理念、世界遺産条約の趣旨に沿って、佐渡金山の「歴史全体」を明らかにして、登録を進めるべきだ。それが佐渡の島民の願いに応える一番の早道だ。

 (強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

  
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