2022年02月18日 1711号

【どくしょ室/地方メディアの逆襲/松本創著 ちくま新書 860円(税込946円)/住民目線で問題に向き合う】

 中央の大手メディアは今、権力の監視というジャーナリズムの本来の働きを果たせず、権力に迎合し無批判に政府の発表を垂れ流す状況にある。本書は、地方メディアこそが住民の視点で問題を掘り下げ、ジャーナリズム本来の役割を果たしていることを実例で明らかにしている。

 秋田魁(さきがけ)新報は、イージス・アショアに対する住民の不安に答えようと取材を深めていった先に防衛省のずさんなデータを発見した。その報道が国家の「防衛政策」の転換に結びついた。地元記者は、在京メディアが全く問題としなかった「なぜ、秋田だったのか」という疑問を明らかにする調査報道を続けている。

 琉球新報は、沖縄県知事選挙をめぐる大量のネットデマを検証し、その発信源に迫った「ファクトチェック」を連載。「デマを決して放置しない」姿勢を示した。「在京メディアの報道姿勢が、県外の『普通の国民』の無関心を生み出しヘイトを蔓延(まんえん)させている」との地元記者の指摘は重い。

 大阪・毎日放送のドキュメンタリー「映像」チームは、政治の介入で育鵬社の教科書が採択され、教員の自由を縛る条例が採択されている現実やその背景にある歴史修正主義に迫った。大阪のメディア全体が、かつては示していた反権力、反骨の気質を失っている中で、この「映像」は稀有(けう)な存在となっていることも本書は紹介する。

 地元で起きている問題や疑問と向き合い、その解決・改善のために何ができるのか、中央目線ではなく地元目線で物事を見つめるのが地方メディアなのだ。著者はそうした地方メデイアの姿を「逆襲」と捉えタイトルにしている。(N)
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