2022年02月25日 1712号

【IRカジノにしがみつく維新/整備計画は利権の皮算用/財政悪化 地域崩壊は必至】

 いまだに大規模開発の利権が忘れられないのがカジノ推進の大阪維新の連中だ。統合型リゾート施設(IR)の地域整備計画提出期限が4月末に迫る中で、非現実的な数字を並べて事業計画の辻褄を合わせている。「財政改善に資する」どころか財政危機を招く多額の税金投入の実態が見えてきた。

業界誌「条件かえろ」

 「世界の統合型リゾート(IR)業界の主要プレーヤーたちが一斉に日本に背を向けた」―そんな書き出しの記事が今年初め、IR業界ネット誌に載った(insaide asian gaming 1月13日)。

 いわく、日本でのカジノ熱は安倍政権下で上昇し、2018年IR整備法が成立。当時約20社にのぼる企業が名乗りを上げていたが、いまや主要企業の撤退が相次ぎ、候補地自治体では、ほとんど競合することなく事業者を決めている―。

 業界誌は撤退理由は採算がとれないからで、条件を見直せと結論する。たとえば30%の高率ゲーミング税、入場料徴収、カジノ面積上限3%、周辺公共インフラ整備費用など事業者の負担を減らせというのだ。

 コロナ禍により、大型集客施設運営の不安定さがあきらかになった。想定した入場者数は見込めない。ならば事業者の支出削減策へと直結する。「ルールを書き直すべきだ」とまで書く業界誌。そうしないと最後の1社さえ撤退すると記事を締めくくっている。

 IR整備法の目的は「…カジノの事業の収益を活用し…」「…財政の改善に資すること」(1条)。政府・自治体はカジノ事業者をつなぎとめるために、税金投入もやむなしに舵を切った。カジノで財政が改善するどころか、主客は明らかに逆転している。具体的にみていこう。

IR整備法の制約

 IR整備法の要件はまず、カジノ以外の施設を必要とする。国際会議場、国際展示場、劇場・レストランなど観光増進施設、観光案内センター、ホテルの5施設が揃わなくてはIRにならない(2条)。これらの施設は一体として民間事業者(設置運営事業者)が運営するのだが、施設を所有する必要はない。施設を持たなければ、カジノ事業者は身軽に撤退できる。他の施設は単独で採算をとるのは厳しく、最悪、廃墟となる可能性さえ否定できない。

 カジノは設置運営事業者が免許を受け、1か所限定で、本人確認できる区画を設けて開帳する。このカジノ行為区画面積は上限の定めがあり、政令でIR施設全体床面積の3%以内とされている。

 不採算部門である会議場や展示場の面積を減らせば、カジノ面積も必然的に縮小せざるを得ない。カジノ事業者にとって面積上限の緩和・撤廃は収益率を高めるうえで、重要なポイントだ。

 一方、カジノ以外の施設には下限規制が政令で定めてある。国際会議は千人以上かつ会議場全体はその倍以上の収容人数、展示場は国際会議場の規模に逆比例的に2万平方bから12万平方bとする。会議場を大きくすれば展示場は小さくてよい理屈だ。ホテルは客室合計床面積10万平方b以上(客室数で2000〜2500程度)。

 これがどれくらいの規模なのか。現在、国内最大の展示場東京ビッグサイト(江東区有明)は総展示面積9・5万平方メートル。千人を超える国際会議場もある。IR整備法はこの施設を上回るものを求めている。ハードルは相当高い。

 国・自治体が受け取る分け前はどうか。カジノ事業者は粗収益(掛け金総額−客への払戻金)の15%を国庫に、15%を自治体に納付しなければならない。他に、入場料金は国が3000円、都道府県等が3000円徴収すると法で定めた。事業者にとって入場料はないに越したことはない。

 「ルールを書き直せ」という業界誌の主張は、いずれ、法改定を求める声として出てくるに違いない。

並ぶ虚構の数字

 IR整備法はコロナ・パンデミック前に成立した。訪日外国人6千万人、旅行消費額15兆円の政府目標を掲げ「観光立国」を政策の目玉にしていたころの話だ。状況は大きく変わっているにもかかわらず、名乗りを上げている3自治体(大阪・和歌山・長崎)の整備計画は政府目標に応じ、とんでもない数字を並べている。

 最も規模の大きい大阪府・市のIR施設は、ごみの投棄場所として造成した人工島「夢洲(ゆめしま)」に1兆800億円をかけて建設する。設置運営事業者は米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス。年間約2千万人の来場で5200億円の売り上げを見込む。

 この数字の根拠は、「投下資本収益率20%をあげるにはカジノで4200億円稼ぐ必要性から逆算したもの」(鳥畑与一静岡大教授)と指摘されるように、事業者の皮算用であり、現実的な数字ではない。MGMが運営するマカオのカジノがコロナ前にあげていた売上実績、それ以上の額が計上されているのだ。

 MGMはコロナの影響で対前年比6割減収となっている。「税金は一切使わない」と公言していた松井一郎市長が、土壌汚染・液状化対策に790億円の支出を決めたのも、唯一の事業者をつなぎとめるための苦肉の策ともいえる。つまり、IRカジノにしがみつく限り、まだまだ公費を投入しかねない状況なのだ。


住民投票求める市民

 他の候補地の事情も変わらない。県知事選(2月20日投開票)が行われている長崎県。テーマパ―ク「ハウステンボス(HTB)」(佐世保市)にIRを誘致する。年間840万人の来場を見込んでいる。HTB自体、コロナ下とはいえ年間120万人程度。とても国際会議場や展示場が利用されるとは思えない。維新推薦の新人候補者はもちろんこのカジノを推進する。

 目の前の課題は貧弱な交通インフラ。事業者カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパンは周辺インフラ整備に約150億円の投資を求められているが、この額は親会社の総純資産よりも多い。

 和歌山県はテーマパーク「ポルトヨーロッパ」などがあるマリーナシティが候補地。現在、年間来場者約300万人の現状でIRには約1300万人の来場を見込む。4700億円の投資が必要とされながら、事業者クレアベスト・グループ(カナダ)の総時価総額は10億ドル(1100億円)以下で、資金調達力はない。

   *  *  *

 IRカジノの賛否を問う住民投票条例制定を求める直接請求が和歌山市では規定数を大きく上回る署名を集め成功した。だが、市議会は自民・公明両党などの反対で否決した。

 大阪府でも直接請求書名が始まる。IRカジノで経済発展などありえない。むしろ、地方財政を悪化させる。そのうえ、近隣商店街の閉鎖やギャンブル依存など地域社会や家庭を疲弊させ、破壊する。健全な地域づくりに市民の力を結集し、IRカジノを阻止し、維新を政治の場から引きずり降ろさねばならない。「カジノは都構想の試金石」と言った大阪維新の会。都構想は2度にわたって否決した。今度はカジノを止める番だ。

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