2022年02月25日 1712号

【子ども甲状腺がん裁判 声あげ始めた事故後の患者 成り立たない過剰診断論】

 1月27日、福島原発事故後に甲状腺がんが見つかり手術を受けた若者6人が、東京電力に損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。原告に対するバッシングを許さないためにも、放射線被ばくによる小児甲状腺がんについて確認しておこう。

甲状腺がん293人

 昨年10月15日に福島市で開催された県民健康調査の検討委員会で、6月末までに行なわれた4巡目、5巡目の検査結果が公表された。4巡目で新たに3人、5巡目で3人の計6人が穿刺(せんし)細胞診で甲状腺がんと診断され、甲状腺がん及び疑いがあると診断された患者はこれで266人となった(うち手術を受けた患者は222人)。これ以外に、全国がん登録で把握された、県民健康調査の集計外のがん患者が27人いるので、合わせて293人が甲状腺がんと診断されたことになる。

 小児甲状腺がんの発症数は、事故前は年間100万人に1〜2人程度。事故から10年経ったので、10〜20人ならば事故の影響はなかったことになる。甲状腺検査の対象者(事故当時18歳以下の全県民)数は約37万人であることを考えると、数十倍の発症で明らかに多発である。

 ところが県民健康調査検討委員会は、2016年3月の「中間取りまとめ」 で、「数十倍のオーダー」と多発を認めながらも、多発の原因が放射線被ばくであることを否定した。以降、どれだけがん患者が見つかっても「原発事故の影響とは考えられない」と結論ありきの姿勢を変えていない。

被ばくは確実な要因

 国立がん研究センターの公式サイト「がん情報サービス」の「甲状腺がん 予防・健診」というページには、「発生要因のうち、確実なものは若年時(特に小児期)の放射線被ばくです」とあり、ほかには遺伝の可能性が指摘されるだけで、それ以外の要因は書かれていない。

 福島原発事故で、その周囲(相当広範囲)にヨウ素131が放出され、相当数の人が被ばくしたのは厳然たる事実だ。多発の要因として、まず放射線被ばくを考えて当然ではないか。

 被ばくによる多発を否定するのが、「過剰診断」論だ。これは、症状もなく治療する必要もないがんを見つけている、というものだ。

 『福島の甲状腺検査と過剰診断』(あけび書房)の著者の一人・高野徹は「過剰診断は単に健康に悪影響を与えるだけでなく、重大な人権侵害につながる」「現在福島で起こっているのは学校検診が原因で発生したがんの大規模な過剰診断という人類が初めて経験する事件」だと述べる。

 この「過剰診断」論に乗っかることで、福島県の専門家会議では学校での集団検査の中止や健康調査そのものの中止を求める声が強まっているという。

早期発見が患者の利益

 発見された甲状腺がんの手術のほとんどを手掛けているのが、福島県立医大の鈴木眞一医師だ。かれは、内分泌学会や甲状腺学会で、手術を終えた180人の8割にリンパ節への転移、再発例が11例などと報告しており、子ども脱被ばく裁判の証言台に立った際も「これまで行なった手術は適切で過剰診断ではない」と否定している。

 また、チェルノブイリ原発事故で放出されたヨウ素131がほぼ消滅した後に生まれたベラルーシの子ども約3万5千人の甲状腺超音波検査では、甲状腺がんは1人も見つからなかった。要因がないところでは、見つけようとしても見つからないのだ。この事実は、福島での多くの発見が、スクリーニング(特定の病気を見つけるための一斉検査)や「過剰診断」によるものではないことを示すものだ。

 さらに「3・11甲状腺がん子ども基金」が実施したアンケートによると、県立医大で手術した180例のうち「全摘出」したのは8・9%だが、県外で手術を受けた60例のうち「全摘出」したのは51・7%と過半数を占める。「全摘出」の場合は、一生ホルモン剤を服用しなければならない。

 この結果は、検査を受けずに症状が出てから受診した場合はがんが進行した状態で発見されることが多く、大きな負担を伴うのに対し、検査を受けて早期発見する方がはるかに患者の利益になることを意味している。

 「子ども甲状腺がん裁判」を支援すると共に、政府・福島県に対して、検査の継続、近隣県への検査の拡充、甲状腺全摘出をはじめ、転移の不安などで普通の市民生活を送れない患者への賠償や生活保障を要求していかねばならない。

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