2022年02月25日 1712号

【佐渡金山 世界遺産「推薦」/安倍が「歴史戦」の大号令/朝鮮人強制労働の事実を否定】

 岸田内閣は2月1日の閣議で、新潟県の佐渡金山遺跡を世界文化遺産の候補として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する方針を了解した。一時は見送りを検討していたが、方針を転換した。「朝鮮人労働者の強制労働などなかった」とする安倍晋三元首相ら自民党右派からの圧力に屈したことは明らかだ。

極右に迎合した岸田

 文化庁の文化審議会が世界文化遺産の国内推薦候補に佐渡金山遺跡を選んだのは昨年末のこと。この選定に対し、韓国政府は「戦時中の朝鮮人強制労働の現場だった」として撤回を求めた。日本政府内でも「韓国が反対する中での登録実現は困難」との見方が強く、ユネスコへの推薦に消極的な姿勢を示していた。

 これは韓国側の主張に配慮したからではない。日本政府はユネスコの「世界の記憶」をめぐり、南京大虐殺に関する資料の登録や日本軍「慰安婦」問題関連資料の登録申請に猛反発。関係国が反対すれば登録しない制度の導入を主導したという経緯がある。

 この制度は世界文化遺産には直接適用されないが、韓国の反対がある中での推薦は日本のこれまでの主張と矛盾した行為になる。よって、外務省を中心に「国際社会から、日本は二枚舌だと批判される」との懸念が出ていた。

 そもそも、安倍元首相のゴリ押し案件である「明治日本の産業革命遺産」の問題が解決していない。この件でも韓国は「朝鮮人が強制徴用された施設が含まれている」と強く反対していたが、日本が「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」と説明すると約束したため、登録に同意した。

 ところが、日本が設置した「産業遺産情報センター」の展示内容は朝鮮人強制労働の事実を否定するものだった。ユネスコの世界遺産委員会は「強い遺憾」を示し、改善を求める決議案を昨年7月に採択した。岸田政権としては、国際世論から嘘つき批判のダブルパンチを受ける事態を避けたかったのだろう。

差別と酷使は明白

 しかし結局は安倍の言いなりだった。安倍が「論戦を避けるという形で登録を申請しないのは間違っている」とのろしを上げると、自民党内の極右議員が一斉に声を上げ、「弱腰」批判に押されるかたちで岸田は方針を転換した。

 現在、安倍やネトウヨ迎合紙の『夕刊フジ』は、「正々堂々とファクト(事実)ベースで反論せよ」という主張をくり広げている。朝鮮人労働者の待遇は「基本的に日本人と同じ」であり、強制労働などではなかったと言うのである。だが、連中は自らの主張に都合のいい「事実」をつまみぐいしているにすぎない。

 佐渡鉱山の地元自治体である旧・相川町(現・佐渡市)が刊行した町史には、戦時中の朝鮮人労働者の実態や当時の鉱山関係者の証言が記されている。それらは安倍らが主張する「ファクト」とは大きく違う。

 三菱鉱業が経営する佐渡鉱業所は1939年から朝鮮人労働者の「募集」を開始し、敗戦までの間に延べ千人以上を動員した。それは出征による労働者不足を補うと同時に、日本人労働者が敬遠する危険な坑内労働に従事させるためであった。労働現場であからさまな民族差別が横行していたことは当時の労務関係者も証言している。

 給与面はどうか。額面は日本人と対等だったが、朝鮮人労働者の手元に現金はほとんど残らなかった。会社が賃金を故郷(家族・行政機関)に送金させたり、強制貯金を行ったからである。現金を持たせない目的は逃亡阻止にあった。

 さらに、朝鮮人の労働と生活は三菱鉱業や特高警察によって厳しく監視・管理されていた。2〜3年の契約期間が過ぎても「国家的必要性」から就労継続を強いられるなど、離職の自由さえなかった。

 「これらの事実は、『募集』形式でありながら、実態は強制労働であったことをよく示している」と、広瀬貞三・福岡大学教授は2000年に発表した論文で指摘する(『佐渡鉱山と朝鮮人労働者(1939〜1945)』)。佐渡金山における朝鮮人強制労働の事実は動かせない。

NHKの翼賛解説

 岸田政権は官邸に省庁横断のタスクフォースを設置し、登録の実現に向け、国際的な理解を得るための取り組みを進めるとしている。安倍が言うところの「新たな歴史戦チーム」である。

 その「歴史戦チーム」について、NHKが夕方のニュース番組『シブ5時』で極右雑誌顔負けの見解をタレ流した(1/27)。例によって、安倍べったりの岩田明子解説委員が登場し、次のように述べたのだ。

 いわく「歴史戦チームというのは、政権の歴史認識に基づいて歴史的な事実を集めて検証を進め、国際社会の理解を得るための戦略を練るなどの特命を帯びたもの。第2次安倍内閣で立ち上げ、歴史認識が絡む外交交渉の節目で重要な役割を果たした。『明治日本の産業革命遺産』を世界文化遺産に登録した際も、このチームが貢献した」

 『シブ5時』は凛々しいイメージのイラスト(写真参照)を使ってこのチームを表しているが、とんでもない話である。「政権の歴史認識に基づいて歴史的な事実を集め」るなんて、歴史修正主義そのものだ。歴史認識は時の政権の従属物ではない。

 残念ながら、今の日本はそうした常識が通用しなくなっている。読売新聞も「日本は背水の陣を敷いて韓国の宣伝戦をはね返」せ、と岸田政権にはっぱをかけた(1/29社説)。政府とメディアが声をそろえ、歴史の偽造を戦いになぞらえ正当化するとは…。まさしく戦争をする国のふるまいというほかない。  (M)



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS