2022年03月04日 1713号

【新型コロナ禍 最悪を更新する大阪/第6波に備えなし岸田政権と大阪維新/公衆衛生の体制強化を】

 「病気になっても医者に診てもらえない」―新型コロナ自宅待機者が全国79万人(2月16日厚生労働省集計、自宅療養者と入院調整中の合計)。これまでの経験はほとんど政策に反映されることなく、医療崩壊が進行している。自治体任せの岸田政権と最悪の死者数を記録する大阪府。何が問題なのか。

「最悪を想定」も

 「最悪の事態を想定して次の感染拡大に備える」―これが昨年10月にスタートした時の岸田政権の決意だった。菅前政権の説明不足を認め、コロナ対策に万全を期すことを表明したはずだ。ところが自宅待機者は菅政権下の第5波(約17万人)の数倍となった。適切な治療を受けることなく自宅で亡くなる人の数も1月は151人(警察調べ)。数こそ昨年8月の250人には至っていないが、死亡者の3人に1人以上、35・8%にもなっている(8月は28・6%)。

 岸田政権は昨年11月「感染力が2倍の変異ウイルス」を想定し「病床1・3倍化」方針を示したものの、前政権同様、医療崩壊を招いた。緊急搬送困難事例は5740件(2/7〜13)、過去最悪を更新中だ。このうちコロナの疑い事案は36%、6割強が非コロナ。つまり他の病気の救急対応にも大きな影響を及ぼしている。

 その上、コロナ対策について首相の会見や専門家の説明は前政権よりも後退したと言ってよい。

 「まん延防止等重点措置」延長を前に岸田文雄首相は2月17日、2か月ぶりの記者会見を開いた。岸田の認識は「感染者数は4倍になったが病床には余裕がある」。自宅で死に至る人が出ても、「政府は病床拡大やワクチン・経口治療薬など全体像を示している」と語り、責任は感じていない。臨時病床確保や接種体制は自治体の責任というわけだ。

保健所機能マヒ

 では自治体の対応はどうか。全国で最悪の状態になっているのが大阪府だ。東京を上回る死者の数を数えている。人口比にすれば3倍以上だ。神奈川、愛知と比べても2・6倍、1・6倍とやはり多い。どうなっているのか。



 「保健所つながらず家族次々発熱」―こんな見出しの記事が載った(毎日2/19)。大阪市内に住む女性(68)が発熱。翌日受診の結果、抗原検査で陽性。「抗体カクテル療法」を受けたが「保健所の連絡を待ってほしい」といわれ帰宅。4日後に熱は下がったが、保健所から連絡があったのは発症から1週間後だった。この間に子どもや孫が陽性に。女性は腎不全の基礎疾患があった。保健所は「基礎疾患のある人は優先的に連絡している。なぜ連絡が遅れたのか個別の理由はわからない」と答えている。

 保健所はほとんど機能していない。先の女性も「家族で何度も電話したが、つながらなかった」と言う。大阪府は「自宅療養者支援サイト」を開設し、24時間態勢で電話を受け付けているが、女性が電話したら「保健所の聞き取りが済んでないと対応できない」。

 結局は、保健所がすべての始まりだ。病院の指示も自宅療養の判断も、保健所が機能しなければ次に進めないのだ。

 大阪市の人口270万人。保健所は1か所。職員数492人のうち感染症対策課は185人。他の部署からの応援はあるものの、連日数千人の新規陽性者が出ている。陽性者情報を登録する国のシステム(HER‐SYS)への入力も滞った。

居直る維新

 この大阪の惨状を取材した「報道特集」(MBS2/12放送)に大阪維新はかみついた。保健所を減らしたのは太田房江知事時代だ。死亡者の比較は陽性者数や高齢化率を考えよ。病床確保など対策を講じている。視聴者の不安をあおる放送は慎むべき―

 維新の言い分を検証してみよう。確かに大阪府内の保健所の数が32か所から18か所になったのは2004年(太田知事)だ。14の支所を本所に統合した。だが、職員数を大幅に減らしたのは維新の時代(08年1月から橋下徹知事)だ。衛生行政職員数を19年までに、2815人(24・5%)削減している。他の自治体でもリストラは行われているが、大阪では率にして全国平均の1・6倍も減らしている。医師・看護師など病院職員に至っては47%(全国平均の7・6倍)の減だ。保健所の機能低下をもたらしたのは、維新政治であることは間違いない。



 大阪の死者が多いのは高齢率が高いからか。大阪府の高齢化率(65歳以上の割合)は実は高くない。低い方から7番目。他の大都市圏に比べ高いのは確かだが、言い訳にもならない。陽性者数に対する死亡率も、維新の資料(昨年12月半ばから2月半ば)でも全国平均より高く、東京の3倍以上。ワーストワンを免れるに過ぎない。どの言い分を見ても、大阪が最悪であることは確かだ。

 臨時病床の確保はどうか。国際展示場インテックス大阪に1000床を確保した。個室に区切られテレビや冷蔵庫まで備えた。医師、看護師は常駐する。1月末に無症状・軽症者用の800床、2月15日からは中等症用30床の運用を始めた。

 ところが、この施設を利用する者はわずかだ。大阪府のウェブサイトによれば、2月19日現在、中等症4人を含む13人。84億円の予算を確保しながら、ほとんど利用されていないのだ。

公的責任をはたせ

 原因は陽性判明者のフォローができていないからだ。実態の把握が遅れれば、適切な対応も取れないのは自明。要は、窓口となる保健所が疲弊しきっていることが最大の原因と言える。

 大阪府関係職員労働組合のウェブサイトには現場保健師の悲痛な声があふれている。「持ち帰り公用携帯にコールセンターからの転送や救急隊からの電話が入る。ほとんど眠れずに翌朝出勤」「こんな状態がもう2年も続いてます。何度も改善を求めていますが何も変わっていません」。職場は電話が鳴りっぱなし。「家に帰っても耳の奥に電話の音が残っているようです」

 保健所業務の軽減のために「入院フォローアップセンター」が入院調整を行っている。だが、病院への搬送調整(救急、民間救急、タクシー)は保健所が行う。「負担軽減にはなっていない」のが実態だ。

 大阪市は遅れていた2万件近い陽性者登録作業を民間業者に委託した。1億円近い委託費を口頭で見積もりを聞き、随意契約。いかに緊急だったとはいえ、ありえない行為だ。

 人材派遣会社パソナに区役所の窓口業務を委託する維新政治にしてみれば、公務員削減こそが手柄。保健所の職員をふやすことなど考えてもいないのだろう。だが民間委託による職員削減は公的責任の放棄と言える。「虐待や引きこもり、精神疾患の方への支援など、本来保健所が公衆衛生としてやるべきことができなくなっています」と訴える保健師の声を聞き流してはならない。

 新型コロナ感染症から何を学ぶのか。健康で文化的な生活を支える公衆衛生のより確かな体制づくりこそ、強化されなければならない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS