2022年03月04日 1713号

【元首相5人が「原発推進は亡国政策」と書簡 政府・自民・維新による異常なバッシング 「脱炭素」の時流利用し原発の存続狙う】

 1月27日、首相経験者の5人(細川護熙、村山富市、小泉純一郎、鳩山由紀夫、菅直人)がEU委員会に「EUタクソノミー(注)に原発を含めるのをやめるよう」求める書簡を送った。その中に「(福島原発事故で)多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」とあることに、政府・自民党や福島県知事が「誤った情報」「誤解や偏見に結びつく可能性がある」と一斉に攻撃し、マスコミもそれを垂れ流す異常な事態となった。

誤った情報を広める?

 書簡は、EUが原発を「脱炭素」であるとして積極的投資を促していることを、「原発推進は…未来の世代の生存と存続を脅かす亡国の政策です」と原発推進への動きを批判する。「私たちはこの10年間、福島での未曾有の悲劇と汚染を目の当たりにしてきました。何十万人という人々が故郷を追われ、広大な農地と牧場が汚染されました。貯蔵不可能な量の汚染水は今も増え続け、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ、莫大な国富が消え去りました」というものだ。

 これに対し、まず山口壮・環境相が2月1日、5人に対し、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という表現は「福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されます」と抗議。

 翌2日、衆院予算委員会で岸田文雄首相が環境相と同じ見解を繰り返し、3日には、内堀雅雄福島県知事が記者会見で「あたかも事実、確定したものであるかのように受け取られかねず、遺憾」と述べた。維新の会も「誤った情報を世界に流布、無責任な行動」と5人を非難する国会決議を自民・立憲に提案する始末だ。

書簡の意義をおとしめる

 5人の書簡は、原発事故後の現状を率直に述べた極めて真っ当なものだ。

 バッシングする連中は、「原発推進は…亡国の政策」という結論部分には触れず、「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」の箇所だけを取り上げる。「脱炭素」の世界的流れを口実に原発「復権」を狙う彼らだが、事故による「悲劇と汚染」の他の例示には反論する材料がない。

 そこで、唯一反論の「材料」がある甲状腺がん問題でバッシングすることで、書簡の意義をおとしめようとした。「材料」とは「甲状腺がんについては、福島県の県民健康調査検討委員会やUNSCEAR(アンスケア、原子放射線の影響に関する国連科学委員会)などの専門家により、現時点では放射線の影響とは考えにくいという趣旨の評価がなされている」(山口環境相)ことだ。

 だが、事故前は年間100万人に1〜2人の小児甲状腺がんが現在までに293人も異常多発している要因は、放射線被ばくしか考えられない。県民健康調査検討委もUNSCEARも信用できる中立組織ではなく、その見解が科学的知見に相当するわけでもない。

 かつてWHO(世界保健機関)で放射線・公衆衛生顧問を務めたベーヴァ―ストック博士は「UNSCEAR福島報告書は…透明性に欠け、包括的でなく、利権から独立しておらず、科学的根拠にもとづいたリスク評価の基本的要件を満たしていない。現在のUNSCEAR委員会は解体されるべき」と述べている(2014年11月記者会見)。


患者や弁護団が抗議

 小児甲状腺がん患者・家族らを支援する「あじさいの会」は、内堀知事発言の撤回などを求め、抗議文を提出。甲状腺がんに苦しむ患者の実情に触れ、「今般の県知事の発言は、県民の不安を押さえつけ、更なる県政・科学への不信を植え付け、特に甲状腺がん患者と家族を孤独に追いやるもの」と抗議している。

 1月27日に東京電力を相手取り損害賠償を求めて提訴した小児甲状腺がん患者の弁護団も、「今回の一連のバッシングによって、小児甲状腺がん患者や家族が今まで以上に気持ちや疑問を口にできなくなることを強く危惧する。彼らの発言こそが『差別や偏見を助長』するのであり、福島の若者やその家族に二次被害を与えるもの」と断罪した。

 政府・自民党によるバッシングは、福島原発事故による健康被害はなかったことにして、原発を存続させることが狙いだ。甲状腺がん患者を犠牲にした策動を許してはならない。

(注)EUタクソノミー
投資対象の持続可能性を評価し、投資を促すためのEU独自の仕組み。



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