2022年03月04日 1713号

【人気ゲーマー発言が大炎上/他者に対して「人権ない」/軽視の風潮広めた改憲勢力】

 「170センチ以下の男に人権ないんで」。人気女性プロゲーマーによる発言が大炎上している。しかし、これ以上の暴言を吐きながら、大きな顔をしている連中がいる。自民党や日本維新の会の面々だ。人権の制限や剥奪が可能であるかのような社会的風潮を作ってきたのは、彼ら改憲勢力なのである。

明らかに容姿差別

 騒動の発端は、日本人で2人目となる女性プロゲーマーの「たぬかな」選手がライブ配信中に行った発言だった。ウーバーイーツを利用した際に男性配達員から連絡先を聞かれたことがあったと語りだし、憤懣をぶちまけた。

 「多分(身長が)165(センチメートル)くらいしかなかった。ダメですね。170ないと、正直人権ないんで。170センチない方は『俺って人権ないんだ』って思いながら、生きていってください。骨延長の手術を検討してください。170あったら人権がちゃんと生まれてくるんで」

 この発言を視聴者から注意されると、「ホンマちっちゃい男に人権あるわけないだろ、お前」と罵倒で返した。後日、「身内ノリで言ってしまった」と謝罪したが批判はおさまらず、所属チームが同選手との契約を解除する事態に至った。

 これは批判されて当然の差別発言である。たぬかな選手は「アンタなんか相手にしない」程度の意味合いで使ったのかもしれないが、相手の容姿や身体的特徴をあげつらい、「人権がない」と決めつけるなんて絶対に許されない。

 そもそも、人権はあったりなかったりするものではない。世界人権宣言が規定するように、「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(第1条)。これが基本的人権という思想だ。

 基本的人権の保障は幾多の先人たちが権力と闘い、勝ち取ってきたものだ。日本国憲法97条の「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」、そして「侵すことのできない永久の権利」という条文には歴史的な重みがあるのである。

自民改憲案の基本

 「ゲーマーの悪態程度に大げさな」と思われるかもしれないが、ここは受け流してはいけない。人権という言葉がかくも軽く使われる日本社会の現実、まるで個人の属性や能力に応じて与えられるものであるかのように人権をとらえる風潮が問題なのだ。

 実際、たぬかな選手以上の暴言を吐いた政治家は、自民党の改憲マニア議員を中心に山ほどいる。片山さつき衆院議員は党の憲法改正草案(2012年版)の説明で「天賦人権説をとるのはやめようというのが自民党の基本的考え方です」と明言した。第一次安倍政権で法務大臣を務めた長勢甚遠に至っては「国民主権、基本的人権、平和主義の3つをなくさなければ、本当の自立自主憲法にならない」とまで言ってのけた(2012年5月)。

 こうした「人権は国家の裁量で与えるもの」という考えは現実の政策に反映されている。生活保護制度の改悪がそうだ。自民党の生活保護プロジェクトチーム座長だった世耕弘成参院議員はこう言った。「(生活保護の)見直しに反対する人の根底にある考え方は、フルスペックの人権をすべて認めてほしいというものだ。(中略)しかしわれわれは、税金で全額生活を見てもらっている以上、憲法上の権利は保障したうえで、一定の権利の制限があって仕方がないと考える」(『週刊東洋経済』2012年7月7日号)

 税金が投入されている制度の利用者の人権は制限して構わないという主張である。たぬかな選手風に言うと「生活保護受給者にフルの人権はないんで」というわけだ。その後、自民党は生活保護給付の引き下げを選挙公約に掲げ、第二次安倍政権下で様々な制度改悪を強行していった。

 人権攻撃の実行犯と言えば、日本維新の会の存在を忘れてはならない。維新に支配された大阪は、職員への思想調査や絶対服従条例の制定など、さながら人権侵害のデパートと化した。

背景に新自由主義

 「人権ない」はゲーム業界やネット上で慣用句的に使われていると、たぬかな選手を擁護する人もいる。しかし、それこそが由々しき問題ではないのか。

 「○○に人権ない」が説得力を持ってしまう現実が今の日本には存在する。たとえば外国人、高齢者、障がい者、性的マイノリティ、非大卒、ホームレス、非正規雇用などなど。生産性で個人を選別する新自由主義の思想が社会全体に浸透している証拠である。

 一ゲーマーはトカゲの尻尾切り的に解雇されても、有力政治家や御用文化人たちはのさばり続けている。何と異常な、恥ずかしい国であることか。  (M)

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